StackAdapt Japan 株式会社 Head of Business
山口 武
株式会社Shirofune 代表取締役 一般社団法人 Advertisers and Publishers Transparency Initiative共同代表
菊池 満長
SEARCHLIGHT株式会社 代表取締役 Originator Profile 技術研究組合 JICDAQアドバイザー
瀬戸 亮
日本経済新聞社 デジタルマーケティング研究機構 幹事 データ活用委員会 委員長
OpenAIは5月7日、次のようなリリースを発表しました。
――今後数週間以内にChatGPTの広告パイロットプログラムを英国、メキシコ、ブラジル、日本、韓国に拡大する予定です。これらのパイロットプログラムを通じて各地域で何が効果的かを把握し、拡大後のサービス改善に役立てていきます。――
パイロットプログラムが今後どう発展していくのかは、まだ見えていない部分もあります。ただ、ユーザーとして、広告主として、この動きをどう見ていくべきなのか。
まず、ChatGPT上の広告はどんなメニューで、どんな形で出ていくのでしょうか。
ChatGPT広告のスタートにあわせて、5月5日に当社StackAdaptとOpenAIの協業が発表されました。
広告配信はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで5月7日に始まり、その後、イギリスでは6月4日、日本では6月17日、韓国では6月19日に開始されています。メキシコとブラジルも対象国として発表されています。
当社StackAdaptは、AIを活用した広告配信プラットフォームを提供しています。コンテキストターゲティングや広告運用支援機能などを展開しており、今回OpenAIとの協業が実現しました。
ChatGPTは現在、世界で週9億人以上のアクティブユーザーを抱え、毎日20億件以上のプロンプトが処理されています。日本でもニュースやテレビで取り上げられ、かなり生活に浸透してきたツールだと思います。利用者は商品を調べたり、選択肢を比較したり、おすすめを聞いたりしながら購買の意思決定をしています。従来のファネルで考えると、認知から比較・検討、購入までのさまざまな段階でChatGPTが使われているわけです。
そうした背景から、広告の接点としても非常に有効ではないかということで、今回広告商材が発表されました。
検索結果から「AIによる回答」へ
消費者の58%が商品やサービスの推奨を得るために、従来の検索エンジンからAIツールへ移行しているというデータがあります。そのうち44%以上は、アドバイスを求めたり、商品を購入したり、課題を解決したりする目的で頻繁に利用しています。
従来の検索では、例えば「エベレスト登山 必需品」といったキーワードを入力し、そのキーワードに紐づいた検索結果を閲覧するのが一般的でした。一方、AIやLLMでは、「5月にエベレスト登山を計画しています。必要な装備は何ですか。荷物はできるだけ軽くしたいです。予算は5,000ドルで、身長は5フィート7インチ、体重は150ポンドです」といったように、より詳細な状況や条件を含めて相談できます。
するとAIは、登山時期や予算、体格などのコンテキストを踏まえながら、必要な装備や服装を提案します。さらに、その文脈に合わせた広告が表示される仕組みになっています。
従来の検索広告が「キーワード」に基づいて表示されていたのに対し、ChatGPT広告は「会話の文脈(コンテキスト)」を理解した上で表示される点が大きな違いです。
ChatGPTは「発見・比較検討・購入」まで購買行動全体に関わる
ファネルの観点で見ると、従来の検索は比較的下流の行動と結び付いていました。
特定の商品名で検索し、その評価や口コミを確認して購入を検討する、といった流れです。一方、ChatGPTはもっと上流の「課題認識」の段階から利用されています。
例えばコーヒーメーカーであれば、「自宅でおいしいコーヒーを入れる一番簡単な方法は?」という相談から始まります。この時点では、まだ特定の商品やブランドを探しているわけではありません。そこから「どのコーヒーメーカーがおすすめか」と相談し、比較検討から購入後の使い方まで会話が続いていきます。
会話データを見ると、ChatGPT上で行われる会話の約20%が購買意図を含んでいるというデータもあります。カテゴリーも幅広く、住宅・住居関連、引っ越しサービス、美容、旅行、料理、自動車、家電など、さまざまな分野で購買に関する相談が発生しています。
では、どのような商材がChatGPT広告と相性が良いのでしょうか。私は、比較検討の要素が強い商材が向いていると考えています。例えば自動車のような高額商品や、購入に失敗したくない商品です。また旅行のように、条件整理や計画立案が重要で、多くの相談が発生する商材とも相性が良いでしょう。
消費者が「相談しながら決めたい」と考える商品やサービスほど、ChatGPT広告の価値を発揮しやすいのではないかと思います。
ChatGPT広告はどのように表示されるのか
ユーザーがプロンプトを入力すると、まずブランドセーフティチェックが行われます。その上で、設定されている広告の中からプロンプトとの関連性が最も高い広告候補が選ばれ、表示されます。
広告は会話画面の下部に「スポンサー広告」として表示されます。事前に設定した見出しや説明文、1:1サイズの画像が掲載される形式です。
また、「この広告について」という項目も用意されています。
重要なのは、広告であることが明確に表示されている点です。広告が回答文の中に入り込むことはなく、会話とは明確に区別された形で表示されます。そのため、いわゆるステルスマーケティングのような見え方にはなりません。
また、「この広告について」から、なぜその広告が表示されたのかや関連するポリシーを確認できるなど、説明責任にも配慮されています。
例えばコーヒーメーカーについて相談した場合、ChatGPTの回答が表示された後、その下に「スポンサー広告」として関連する広告が出るイメージですね。会話の中に自然に紛れ込むというよりは、回答とは別のエリアに表示されると。
その通りです。
OpenAIが掲げる4つの広告原則
プラットフォームと消費者がどのような関係を築いていくのかは非常に重要です。OpenAIは「ChatGPT広告の原則」として4つの考え方を示しています。
1つ目は「回答の独立性」です。
広告は回答とは完全に分離されており、回答内容そのものに影響を与えません。
2つ目は「会話のプライバシー」です。
広告は会話の文脈に合わせて表示されますが、会話内容そのものが広告主に共有されることはありません。
3つ目は「選択とコントロール」です。
ユーザーは広告体験を管理でき、「この広告について」などを通じて表示内容を確認したり、フィードバックを送ったりできます。
4つ目が「長期的な価値」です。
広告商品として成立させるだけではなく、ユーザーとの信頼関係を維持しながら長期的に運営していくことを重視しています。
広告は誰が選んでいるのか
ひとつ気になるのは、どの広告を表示するかのロジックです。
会話内容を理解しているのはAIですが、広告もOpenAI側のロジックで選ばれているのでしょうか。それとも広告配信プラットフォーム側の仕組みなのでしょうか。
どちらかと言えば後者ですね。広告は会話のコンテキストに合わせて表示されますが、広告配信の仕組みとしてはプラットフォーム側のロジックが中心になります。
例えば「子ども向けのおやつでおすすめはありますか」と質問した場合でも、その前後の会話によって文脈は大きく変わります。価格重視で探している人と、オーガニック商品を探している人では、回答内容も異なります。広告も同様で、会話の文脈に合わせてマッチングされます。
AIの回答はユーザーごとにかなりパーソナライズされますが、広告についてはコンテキストベースで最適化されるということですね。
そうですね。広告主側ではかなり細かい設定が可能です。同じ商品でも複数の広告パターンを用意し、どの文脈でどの広告が最も効果的かを検証しながら運用していくことになります。
新たな広告チャネルとしてどう向き合うか
運用の観点について伺います。
支援ツールの立場から見ると、ChatGPT広告はどのような存在なのでしょうか。
私は株式会社Shirofuneで広告運用支援に携わっています。Shirofuneは、広告運用のプロフェッショナルが行っている業務をシステム化し、運用工数の削減と成果向上を両立するためのソリューションです。
私たちから見ると、ChatGPTも一つの広告プラットフォームです。これまでGoogleやSNSなどの広告チャネルを管理していたのと同じように、新たにChatGPTというチャネルが加わることになります。そうなると、予算管理や配信調整、レポーティング、クリエイティブ管理など、新たな運用業務も発生します。
私たちとしては、それらを効率的に管理できるよう支援していきたいと考えています。また、ChatGPTが大きな広告機会になる可能性があるからこそ、広告プラットフォームとしてどのような機能があり、どのような運用が必要になるのかを具体的に見ていくことが重要だと思います。
キーワードからコンテキストへ、ChatGPT広告が変える広告運用
管理画面は、「キャンペーン」「広告グループ」「広告」の3階層で構成されていて、基本的な考え方は既存の広告プラットフォームと大きく変わりません。
「キャンペーン」階層では、配信実績の確認や予算設定、配信期間の管理などができます。
特徴的なのは「広告グループ」の階層です。ここでは、自社の商品やサービスに関する説明文を入力すると、その内容に関連する会話の文脈に合わせて広告が表示されます。
「こういう課題を持つ人に届けたい」「こういうサービスを提供している」といった情報を設定しておくことで、ユーザーの会話内容に応じて広告が配信される仕組みです。
どのような内容を入力し、広告グループをいくつ作り、どのように最適化すれば成果につながるのか。そこは今後、広告主や運用者が研究していく領域になると思います。
リスティング広告であればキーワードを設定しますし、SNS広告であればターゲット属性を設定します。一方で、ChatGPT広告は文章を入力するスペースが用意されていて、かなり自由度が高いように見えます。
そうですね。現時点ではかなり自由度が高く、どちらかというとフリーハンドに近い印象です。その中で成果につながるパターンを見つけていくことになると思います。
何を書けば、どのような会話文脈で広告が表示されるのか。最初はかなり手探りになりそうですね。
はい。現状はまさにその段階だと思います。今後さらに機能が充実していくのではないでしょうか。
広告クリエイティブについては、現時点では比較的シンプルです。タイトル、説明文、画像を設定する一般的な広告フォーマットで、大きな特徴はありません。ただ、広告を広告として明確に区別することは、プラットフォームとしての信頼性を維持する上で非常に重要です。そのため、現段階では分かりやすい形で表示されています。
振り返ると、Googleの検索広告も当初は検索結果とは明確に区別されていました。しかし、ユーザー体験を損なわない形を模索しながら、徐々に検索結果との融合が進んできました。ChatGPT広告も、今後ユーザーからの支持や利用状況を踏まえながら、フォーマットが変化していく可能性はあると思います。
今後重要になるのは「変更履歴」や「コンバージョン計測」の充実だと思います。広告主に継続して投資してもらうためには、どのような成果が出たのかを可視化する必要があります。また、「フィード情報」の仕組みも用意されています。例えば商品データをアップロードしておけば、その内容に応じて適切な会話文脈で広告を表示することができます。
イメージとしてはショッピング広告に近く、商品情報を登録しておくことで自動的に関連する場面へ配信される仕組みです。広告運用の負荷を減らしながら成果を出せるよう、OpenAIも必要な機能を優先的に整備している印象があります。
ただ、現時点ではまだ発展途上です。広告運用や分析機能の充実度という意味では、Google広告と比較すると、これから整備される部分も多いと感じています。
ChatGPT広告運用はまだ手探りの段階
実際に運用する上での課題は、大きく3つあると考えています。
1つ目は入札・予算管理です。
広告グループごとに異なるコンテキストヒントを設定しながら検証を進める必要がありますが、現時点では自動入札機能がありません。そのため、入札調整は基本的に手動で行う必要があります。
今後どこまで自動化されるかは、プラットフォーム側の進化次第でしょう。また、日予算の最大2倍まで配信される仕様になっており、このあたりはGoogle広告と近い考え方です。
2つ目はレポート・分析機能です。
現状では、日別・週別・月別の推移や期間比較など、広告運用では当たり前になっている分析機能が十分とは言えません。成果を分析するための切り口がまだ限られています。
3つ目はアカウント構成です。
特に広告グループごとのコンテキストヒント設計には手間がかかります。どのような文脈を想定し、どのような表現を入力すれば成果につながるのか、まだ確立されたノウハウがありません。
そのため、試行錯誤しながら最適な設計を見つけていく必要があります。
私たちのような運用支援ツールは、そうした作業負荷を軽減する役割を担っていくことになると思います。
管理画面自体はシンプルですが、広告主の立場からすると難しい部分もありますよね。特にコンテキストヒントに何を書けばよいのか、そのヒントがまだ十分に示されていません。最近は広告会社による自動入稿機能や運用代行サービスも増えていますが、現時点では業界全体がまだ手探りの状態だと思います。
パイロットプログラムが始まったばかりですし、先ほどの話にもあったように、広告配信のロジックとChatGPTの回答生成ロジックは必ずしも同じではありません。例えば、ユーザーがAIエージェントとしてChatGPTを利用し、「おすすめの商品を選んでほしい」と相談した場合でも、広告は回答とは別の場所に表示されます。そう考えると、ユーザーが広告を積極的に選択するのか、それとも回答の方を重視するのか。そのあたりはまだ見えていない部分があります。
おっしゃる通りだと思います。今後は、LLMの能力を広告側にもどのように活用していくのかが重要になるでしょう。そこが進化しなければ、広告としての価値を高めることは難しいと思います。
広告と回答はどこまで近づくのか
現状は、従来のWebメディアでいうところの広告枠とコンテンツエリアが分かれている状態に近い印象です。
私もそう考えています。一方で、広告単価を高めていこうとすると、広告と会話の距離は少しずつ近づいていく可能性があります。ただし、それを進めるにはユーザーの信頼を損なわないことが前提になります。どのような形で広告を体験として成立させるのか。そこは今後の大きなテーマだと思います。
「広告だと気づかれないリスク」も議論が必要
ユーザーからすると、広告配信の仕組みと回答生成の仕組みが別になっていることは分かりません。場合によっては、広告もChatGPT自身が推薦しているものだと受け取られる可能性があります。
そうなると、ユーザーに誤解を与えるリスクもありますし、広告主にとってもブランド毀損につながる可能性があります。そのあたりの透明性や信頼性についても考えていきたいと思います。
SEARCHLIGHT株式会社の瀬戸です。私はこれまでアドベリフィケーション領域に携わり、現在はフェイクニュース対策や広告の信頼性向上に関する取り組みを行っています。また、JICDAQのアドバイザーとして、広告品質の向上に関する活動にも関わっています。ChatGPT広告を考える上では、配信手法や運用だけでなく、「信頼性」や「透明性」の観点も欠かせません。
プラットフォームに求められる2つの「倫理」
ChatGPT広告はAIサービスが広告に組み込まれることで構造的に2つの問題が発生すると考えられます。
1つ目はユーザーとの親密な関係の中で生まれるデータの商用利用に関する倫理です。
ChatGPTは日常的な疑問の解決だけでなく、個人的な悩み相談や愚痴を聞いてもらう相手として使われることもあります。夜中まで付き合ってくれる存在として、すでに生活の中に入り込んでいます。
だからこそ、プライバシーや心理的安全性が本当に担保されているのかという視点は重要です。
2つ目は、経済的インセンティブと安全性のジレンマです。
広告収益を伸ばそうとすると、より広告を見てもらう、よりサービスに滞在してもらう方向に進む可能性があります。一方で、ユーザーとの信頼関係を維持しなければなりません。このバランスをどう取るのかは大きな課題になると思います。
AI広告に求められる安全設計
そこで重要になるのが、AI広告の安全設計です。
例えば、回答と広告を明確に分けることです。もし回答に紛れる形で広告が表示されれば、「信頼しているAIが勧めている商品だ」と受け取られる可能性があります。そのため、広告であることを明確に示し、インターフェースの模倣や誤認を誘導するような表現を避けることが重要になります。また、ランディングページとの一貫性の確認や、センシティブな文脈での広告表示を控えること、配信開始後の継続的なモニタリングなども必要です。
AIと広告の信頼関係をどう守るか
ChatGPT広告を巡っては、開始当初からさまざまな議論がありました。
ユーザーの中には、「回答がスポンサーの意向によって変わるのではないか」と懸念する声もあります。また、「AIが勧めているのだから良い商品に違いない」と受け取られるリスクもあります。
だからこそ、ChatGPTとユーザーとの信頼関係を広告によって損なわないことが重要です。同時に、広告主と消費者との信頼関係についても改めて考える必要があります。
私たちはどのようなプラットフォームを使うのか、どのような広告のあり方を支持するのかを選択していく時代に入っています。
なんとなくレコメンドされる不透明な情報や広告ではなく、透明性と納得感のある関係性をどう構築していくのか。それが重要だと思います。
実際にChatGPTなどのAIサービスを使っていると、検索エンジンには入力しないような内容まで相談している人も多いと思います。検索キーワードとは違い、一人ひとりが書いている内容は非常に多様です。中にはChatGPTに名前を付けて会話している人もいます。そう考えると、ある日突然、商品を勧められるようになったと感じたときに、「裏切られた」と受け取る人が出てくる可能性もあるかもしれませんね。
キーワードから文章を買う広告へ、ChatGPT広告の可能性と課題について議論します。
お楽しみに!