【特別記事】「デジタル健全化」座談会【前編】なぜ広告は嫌われるのか―広告の健全化を阻む構造的な課題―

公開日 2026年09月10日
  • デジタルマーケティング
  • 広告品質
  • デジタルメディア
  • デジタルマーケティング研究機構

株式会社SUBARU 国内営業本部マーケティング推進部 宣伝課 課長

安室 敦史

ディップ株式会社 マーケティング本部 本部長

中村 大亮

株式会社日本経済新聞社 プラットフォーム推進室 部長

小林 秀次

SBCメディカルグループ株式会社 CMO

井上 慎也

広告の健全化を阻む構造的な課題

小林

まずは認識を合わせる意味で、皆さんの考えていらっしゃる「広告の健全化」について、どういうものをイメージし、どう考えているか教えていただけますか?

安室

事業会社の視点と、一消費者の視点と、両方あると思います。
一消費者として見ると、正直うっとうしい体験がいっぱいありますよね。記事を読もうとしたら広告が被ってきたり、意図していないサイトに飛ばされたりする。事業会社の立場でも「こんなところには出したくないな」と思うこともあります。
一方で、事業会社側にも責任があると思っています。「安価に、たくさん獲得してください」と安直に求めてしまうことで、結果的にそういう場所に広告が出てしまうリスクを高めている部分もある。
本来であれば、誰に、何を、どう届けるのかを考えた上で、その成果を見るべきなんですよね。でも、どうしても目先の数字に引っ張られてしまう。
自分自身、長年メディアバイイングをやっていて気づいたことがあります。
見かけ上のExcelの数字だけを見ると、すごく良い広告メニューがありました。安価で、コンバージョンもたくさん取れているという説明だったんです。
でも、うちは購買データとつなげて見ることができる環境があったので確認してみたら、実際には全然売れていなかった。
なぜそうなっているのか、正確な理由までは分かりません。ただ、そういうケースは世の中にたくさんあるんじゃないかと思います。
うちはたまたま気づくことができましたが、もし気づかなかったら、広告費の大半がそこに流れていたかもしれない。
数字だけを見て判断すると、そういうことが起きてしまうと思います。

中村

「この広告で誰が得するんだろう」と思うケースは、本当に多いと思います。
広告って、もともとそんなに好かれるものではなかったと思うんです。テレビでも、番組を楽しむ代わりに広告を見てもらうという、ある意味トレードオフの関係でした。
でも今は、単純に嫌われているだけではなくて、さらに嫌われる方向に進んでしまっているように感じます。
原因は、安室さんがおっしゃったことと同じで、それぞれのプレイヤーが自分のことだけを考えてしまっているからではないでしょうか。
広告主だけでも、代理店だけでも、媒体社だけでも解決できる話ではないと思います。

井上

私は、「見せ方」と「内容」の両方に問題があると思っています。
消費者目線で見ると、記事を読もうとしたら広告が邪魔をするという見せ方の問題があります。
一方で、健康食品や美容関連などでは、広告クリエイティブ内の情報や商品の表現そのものに疑問を持たれるケースも増えている。
本来、広告って楽しいブランディングの側面もありますし、お客さまと企業をつなぐ橋渡しになるものだと思うんです。
「この情報が欲しかった」「この商品に出会えてよかった」
そういう出会いをつくるものだったはずなんですよね。
でも、その役割が崩れてきている。
例えば美容医療などの自由診療では、マーケティング会社が主導して集客するケースも増えています。自由診療は集客が止まると売上も止まってしまうので、どうしても短期的な獲得に寄りやすい。
「1000円体験」「今だけ無料」
そうした訴求で来院してもらい、結果的に高額な契約につなげるケースもある。
もちろん、すべてがそうというわけではありません。ただ、本来なら企業とお客さまを適切につなぐはずの広告が、逆に業界への不信感を生んでしまっている部分があると思います。

小林

大手メディアでも、正直「気持ち悪いな」と感じるくらい広告枠が増えているケースがありますよね。
インタースティシャル広告が途中に入ったり、記事ページを開いたら、どこまでが記事でどこからが広告なのか分からないくらい広告エリアになっていたりする。
一方で、広告会社からの配信報告を聞いていると、「ここがCPAが良いので」という話は普通に出てきます。
でも、実際にどこに、どういう形で出ているのかまで把握できているケースは、意外と少ないんじゃないかと思います。。
僕自身、外では広告の健全化について話しているのに、外部の方からは「ここ、効率がいいんです」とExcelのレポートで言われることが本当に多い。
昔、広告出稿を考えるときって、ExcelのCPAだけを見て判断するような会話は、そこまで多くなかった気がするんですよね。

井上

私がアドビにいた10年ほど前も、もちろんクリック率やCPCなどは見ていました。
ただ、それだけで評価していたわけではありませんでした。アナリティクスで、その後コンバージョンにつながっているのかまで確認するのは当たり前でした。
あるマーケティング系メディアのレポートで、ものすごく良い数字が出ていたことがありました。
でも、広告体験として少し違和感があったので調べてみたんです。

そうしたら、クリックはされているけれど、売上には全然つながっていなかった。
いわゆる誤クリックを狙うような設計になっていたんです。それでもだんだん、数字だけを見るようになってしまう。
そして、そういう状況を十分理解していない人に対して、「数字が出ていますよ」と数字だけを武器にプレッシャーをかけるような構造もあると思います。

中村

広告主側の事情としては、人の入れ替わりも大きいと思います。
私がこれまでにいた会社でも、デジタル広告を担当する人は何人も変わっています。
そうすると、同じ会社でも見る数字や、重視するものが変わってくるんですよね。

安室

うちも、正直に言うと、スペシャリストを育てようという発想はあまりなくて、2〜3年で担当者が変わることが多いです。
以前、友人が世界一周旅行をした時に、「どこが一番良かった?」と聞いたら、エジプトだと言っていたんです。その理由を聞いたら、ピラミッドの話をしてくれて。
王様が亡くなると、その王様のためにピラミッドを作りますよね。そして新しい王様になると、前の王様の名前を削って、自分の名前を書くことがあるそうなんです。
何千年も前から、人間ってそういうところがあるんだなと思いました。
実際、せっかく購買データと広告データをつなげて見る仕組みを作ったんです。
でも、担当者が変わったら使われなくなっていました。
久しぶりに戻ってみたら、「そんなものあったんですか」と言われてしまって。
もちろん引き継ぎはしていたんです。でも、人が変わると、そういうことって起きるんですよね。

井上

マネージャー層も変わりますし、マーケティングやデジタルを十分理解していない人が担当になることもあります。
また、現場で経験を積んだ人が管理職になるケースも多いですが、事業については詳しくても、マーケティングの知識が十分ではない場合もあります。
そうすると、パートナー企業から説明されたことを、そのまま受け入れてしまうこともある。
だからこそ、個人の能力や経験だけに依存するのではなく、組織としてKPIや方針を定めて、ガバナンスを効かせることが重要だと思います。

小林

パートナー企業側も、本当は深い議論をしたくないわけではないと思うんです。
ただ、広告主側から聞かれなくなった、という感覚はあるのかもしれません。

安室

エージェンシー側も、やっぱり忖度の力学が働くところはあると思います。
本当の意味で広告主に「それは違うんじゃないですか」と言える人は、決して多くない。
もちろん、すべての人がそうだという話ではありません。
ただ、構造としてそうなりやすい部分はあると思います。

井上

私はパートナー企業に対して、「顕在化しているお客さんばかりを取りにいく必要はありません」と伝えています。
戦略として本当にやりたいのは、新しい市場を広げることだからです。
もちろん、法律を守ること、嘘をつかないことは大前提です。
その上で、適切なCPAとは何なのか、適切なやり方とは何なのかを考える必要がある。
明確な戦略や方針がなければ、現場はどうしても目先のCPAを追い続けます。
そして限界が来ると、過激な表現や無理な施策に向かってしまう。
結果として、広告主もパートナー企業も苦しくなってしまうんだと思います。

広告の健全化に必要な「覚悟」と「足並み」

小林

最近は生成AIがどんどん出てきて、クリエイティブもいろいろ作れるようになりました。一方で、掲載される媒体側でもAIで作られたようなコンテンツが増えて、MFA(Made For Advertising)と呼ばれる広告収益のみを目的として作られた低品質なWebサイトも増えてきています 。さらになりすましも増えていると思います。
そう考えると、これまで話してきたジョブローテーションによるリテラシーの問題、パートナー会社との関係、さらにメディア側も収益の為に広告を増やしていかないといけないという事情など、いろいろな要素があります。
でも、嫌な広告を出したいと思っている広告主はいないですよね。
それなのに、なぜそうなってしまうのか。
井上さんがおっしゃっていた「意思を持つ」という話もありましたが、意思が足りないのか、何が足りていないからこういう状況になってしまうのか。そのあたりをどう考えますか。

中村

卵が先か鶏が先か、みたいな話になると思います。
エージェンシー、メディア、広告主という三者が大きなステークホルダーだとすると、広告を出す側が覚悟を決めるのが一番いいとは思います。
ただ、卵が先かという話で言うと、メディアでもいいんじゃないかと思っています。
メディアも読者あってのメディア、広告だと言うのであれば、そちらもそれなりの覚悟を持ってやってほしい。
エージェンシーは、それを推進するために動いてほしい。
三者でやっていかないと、どこか一つだけでは難しいんじゃないかと思います。

後編は9月中旬頃アップ予定です!

健全化には組織の変革が必要?本来のマーケティングとは何か?など次回もお楽しみに☆彡

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