JIAA「データ取扱基本原則」 および「セルフチェックシート」解説セミナー~消費者データの正しい利活用に向けて~

公開日 2026年08月01日
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一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA) プロジェクトフェロー

宮一 良彦

株式会社PIER1代表取締役
Advertisers and Publishers Transparency Initiative(APTI)共同代表
ソフトウェア開発、メディア運営、広告配信システムの導入・事業化に長年携わる。現在は、デジタル広告におけるデータプライバシー、広告取引の透明性、データの適正な利活用を中心に活動している。

デジタル広告業界全体で取り組むデータ倫理

デジタル広告のサプライチェーンには、広告主、広告会社、プラットフォーム事業者、サービスを提供する事業者、媒体社、そして消費者など、多くのステークホルダーが関わっています。JAA、JAAA、JIAAなど、多様な団体に所属する企業が関係していますし、会員以外の事業者も含めて成り立っています。

こうした中で、消費者のデータをそれぞれの方々に役立つよう適切に活用するためには、サプライチェーンの一部だけで対応しても十分ではありません。各事業者が個別に取り組むだけでは効力が限定的であり、消費者の信頼を得るには、業界全体での取り組みが求められます。

現在、広告主、広告会社、媒体社、プラットフォームは、各社のサービスに合わせてプライバシーポリシーやガイドラインの整備など対応を進めています。しかし、一社で起きた問題が他社も含む業界のイメージに影響を与えることもあります。「広告業界は」と、ひとくくりに受け止められてしまい、業界全体に波及するケースも少なくありません。

そこで私たちは、データ取扱基本原則を策定し、これを業界全体で実践していきたいと考えています。

環境変化と原則によるアプローチの必要性

背景にある環境変化の一つが、AIの急速な進化です。

JIAAでは、これまでも、ユーザーに適切な広告を届けるための、データに基づく興味関心の推定など、データの利用に関する規律の策定等の取り組みを進めてきました。しかし近年は、ユーザーが直接関知していない情報についてもAIが類推できるようになり、その精度も高まっています。

その結果、消費者から見ると「自分の情報が漏洩しているのではないか」と受け取られかねず、例えば、携帯電話であるブランドについて会話をしていたら、その直後に関連する広告が表示されたことで、「(第三者に)会話が聞かれているのではないか」と誤解されるケースも生じています。実際に音声データが利用されているわけではなくても、AIによる推論の精度が高まったことで、そのような印象を与えてしまう可能性が高まっているのです。

また、AIは学習結果をモデルの内部に保持するため、一度学習された情報から特定個人のデータだけを取り除くことが難しいという課題もあります。EUでは、学習済みモデル自体が個人情報を含み得るという考え方のもと、規制の議論も進んでいます。

もう一つの環境変化が、グローバルな規制強化です。EUでは、偽レビューの禁止や価格表示の透明化、AIによるパーソナル価格設定の通知義務など、消費者保護に関する規制が強化されています。企業にはこれまで以上に高い透明性と倫理的な対応が求められるようになっています。

こうした変化を受け、JIAAでもガイドラインによる対応にとどまらず、その根底にある考え方や原則を共有することが、今後の状況変化に対応する上で、ますます重要になっていくと考えています。

なぜ「規律(ルール)」に加えて「原則」なのか?

ここでは、ガイドラインなどで遵守しなければならない、または推奨される事項を定める考え方を「規律ベース」、それに対して、判断の拠り所となる基本的な考え方を示すものを「原則ベース」と呼ぶこととします。

まず、技術の進化への対応です。規律ベースでは、新しい技術やサービスが登場するたびにルールの追加や変更が必要となります。一方、原則ベースでは、状況が変わっても不変であるため、変化を見据えたコンパスのような役割を果たし、新しい状況に柔軟に対応するための指針になります。

また、企業行動の面では、規律ベースは「ルールを守ること」そのものに意識が向きやすく、そもそも何故そのようなルールが出来ているか、という背景が忘れられがちになる傾向があります。これに対し原則ベースでは、「消費者にとって適切か」という本質的な視点から、自律的に倫理を追求する姿勢につながります。

イノベーションの観点でも違いがあります。規律ベースではルールに書かれていない部分が抜け漏れの原因になりがちですが、原則ベースでは消費者との信頼関係を前提に、適切に判断することができます。また、新たなリスクが生じた場合にも、原則に照らして柔軟に対応できるという強みがあります。

社会的評価という点でも、原則ベースで取り組むことは、自らの意志で「責任を果たしている企業」としての高い信頼につながります。

規律ベースでは、企業の中でも法務部門が中心になりやすい一方、原則ベースであれば、マーケティングやシステム運用など、消費者と接するさまざまな部門が共通の考え方を持って判断できます。こうした背景を踏まえ、JIAAではデータ取扱基本原則を策定しています。

基本原則は6ページ程度で、細かな規定や用語の定義を並べるものではありません。変化を見据えたコンパスとして、原則に照らしながら柔軟に判断できるよう設計されています。

JIAAデータ取扱基本原則 【データ取扱基本原則(PDF)】
https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2025/10/JIAA_dataprinciple.pdf

基本原則の3本柱

JIAAのデータ取扱基本原則は、「情報非対称性への配慮」「利害の乖離への配慮」「社会的責任」の3つの柱を軸に構成されています。

①情報非対称性への配慮

情報非対称性への配慮とは、企業と生活者の間にある情報の差を認識し埋める努力をすることで、信頼を得るための考え方です。

具体的には、まず取得しているデータの種類や取得方法を明示することが求められます。生活者から直接取得した情報なのか、AIなどによる推測なのかを分かりやすく説明する必要があります。

また、生活者が合理的に理解し、納得できるプロセスを設計することも必要です。専門用語を並べるのではなく、平易な言葉で説明し、「この企業なら信頼できる」と感じてもらえるコミュニケーションを目指します。

さらに、データの利用目的についても、単に「サービス改善のため」とするのではなく、できるだけ具体的で分かりやすい説明が求められます。

加えて、オプトインやオプトアウトなどを通じて、生活者自身がデータ利用をコントロールできる選択肢を提供すること、そして将来の利用を見越して過剰に収集するのではなく、必要最小限のデータ取得の徹底を求めています。

②利害の乖離への配慮

利害の乖離への配慮とは、企業の利益追求と生活者のプライバシーや安心感とのバランスを取るための原則です。

まず、AIなどによって推論された情報は、たとえ直接取得した情報でなくても、本人の利益を損なうような利用は避けるべきとしています。

また、データを活用した広告配信では、過度な追跡やターゲティングを行わず、生活者の不安や劣等感をあおるような表現は避けるべきです。リターゲティング広告の表示回数を適切に管理するなど、プライバシーへの配慮が感じられる運用が求められます。

さらに、なぜその広告が表示されているのか、どのようにデータが利用されているのかについて、生活者が理解できる説明を行うことも大切です。寄せられた問い合わせや懸念に対して真摯に対応し、信頼関係を築いていく姿勢も欠かせません。

加えて、データの紛失や不正アクセス、漏洩などを防ぐための十分なセキュリティ対策を講じることも重要です。

③社会的責任

社会的責任は、法令遵守を超えて、自律的な倫理観に基づく行動を促す原則です。

まず、法令やガイドラインを守ることは前提として、それだけではなく社会倫理に照らして責任あるデータの取り扱いを行うことを求めています。また、その考え方を取引先とも共有し、サプライチェーン全体で広げていくことが重要です。

さらに、データの利用にあたっては、差別や偏見、誹謗中傷、ハラスメントにつながるような不適切な活用を避ける必要があります。

未成年者や子どものデータを扱う際には、取得方法や利用方法だけでなく、広告内容に応じた子供への影響についても慎重な配慮が求められます。子どもが接する可能性を踏まえた責任ある運用が必要です。

加えて、データ利活用に関する知見や課題を業界内で共有し、ルールメイキングや標準化を通じて業界の健全な発展に貢献していくことも、この原則に含まれています。

このように、JIAAのデータ取扱基本原則は、3つの柱と15の取り組みで構成されています。事業者だけでなく消費者にも理解しやすい内容を目指して設計されており、OECDプライバシー8原則などの考え方とも整合する形となっています。

実践ツール:セルフチェックシートの活用法

データ取扱基本原則を実践するためのツールとして、JIAAではセルフチェックシートを用意しています。

【セルフチェックシート(Excelダウンロード)】 
https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2025/10/JIAA_dataprinciple_check-sheet.xlsx

セルフチェックシートは、ISMSやプライバシーマークの運用で使われるチェックシートと似た構成で、データ取扱基本原則に定められた15の取り組みについて、自社の実践状況を確認し、改善につなげるためのツールです。どこかに提出するものではなく、事業者が自主的に活用することを目的としています。

主な目的は、実践状況の点検、課題の抽出、そして説明責任への備えです。例えば、事業部門と法務部門の間で認識に違いが生じている場合でも、チェックシートを活用することで、それぞれの考え方を可視化し、課題を共有できます。

チェックは原則ごとの質問項目に沿って行い、自社の取り組みを4段階で評価します。チェック項目に対応するサービスを提供していない場合には「該当なし」とするなど、自社の事業実態に合わせて運用できます。その結果をもとに課題を抽出し、改善計画の策定やフォローアップにつなげます。

チェックの進め方

シートには基本原則の内容に加え、確認すべきチェック項目や実践例も掲載されています。このシートは単なる自己評価ツールではなく、社内で認識を合わせ、ナレッジを共有するためのツールとしても活用できます。

各部門で結果を持ち寄り、差分を確認するだけでも、自社の方向性や課題を整理するきっかけになるでしょう。

また、セルフチェックシートは、サービス別、部門別、階層別などさまざまな単位で活用できます。立場によってデータ活用に対する考え方や実践内容は異なるため、認識を合わせることも目的の一つです。

実践のためのリソース配分を検討する際にも役立ちます。できていること、できていないことを整理することで、優先的に改善すべき課題を明確にし、具体的な計画につなげられます。

さらに、定期的に実施することで、自社の取り組みの変化や改善効果を把握することも可能です。継続的な点検を通じて、データ利活用に関する社内の共通認識を醸成し、より良い実践へとつなげていくことが期待されます。

データ取扱基本原則を実践するメリット

データ取扱基本原則を実践することにはさまざまなメリットがあると考えています。

まず、データ倫理に配慮する企業としてのブランド価値向上です。消費者や取引先からの信頼獲得に加え、ESGの観点からも高い評価につながる可能性があります。

また、リスク管理の面でも有効です。法令を遵守していても、炎上やレピテーションリスクが発生しないとは限りません。原則に基づいた取り組みを進めることで、そうしたリスクの低減につながることが期待されます。

さらに、短期的な成果だけでなく、中長期的な顧客ロイヤリティやライフタイムバリューの向上という観点からも意義があります。目先の数値目標だけではなく、「この取り組みは原則に照らして適切か」という視点を持つことで、より持続的なデータ活用が可能になるでしょう。

人材育成にも効果があります。規律だけでは「ルールを覚える」ことが中心になりますが、原則が共有されていれば、経験の浅い社員や新たに加わったメンバーでも、企業として大切にする考え方を理解しやすくなります。

JIAAでは、こうした原則の共有と実践を通じて、データ利活用に対する社会からの信頼を高め、持続的に発展できるデジタル広告業界の実現を目指しています。

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