AIマーケティングが加速させるのは「勝ち筋の発見」~仮説を広く試し、早く学ぶ、プランニングの新しい型~

公開日 2026年04月15日
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株式会社電通 第1マーケティング局 シニア・マーケティング・ディレクター/AIマスター

千田 智治

事業会社の課題に合わせ、AIを活用したマーケティングソリューションの開発、プランニングの高度化、キャンペーンやコンテンツの企画・制作を推進。dentsu Japan AIセンターのAIマーケティング&クリエイティブ高度化におけるソリューション開発をリード。工学修士。コンピューターサイエンス専攻。

AIが語られるとき、議論はどうしても工数削減に寄りがちです。もちろん、それは重要です。ですが、AIマーケティングの真価は、仕事を速くすることだけにはありません。
人間だけでは見落としがちな選択肢を広げ、複数の仮説を早い段階で試し、比較し、磨き込みながら、勝ち筋を見つける確度そのものを高められるようになったこと。
ここにこそ、本質的な変化があります。

マーケティングはもともと、不確実性の高い営みです。市場環境は揺れ、生活者の情報接触や購買導線は複雑化し、最初から「正解」を見抜くことはますます難しくなっています。
だからこそ今、重要になっているのは、AIを単なる効率化ツールとして使うのではなく、失敗しにくく、成功確度を高めるための思考と判断のインフラとして活用することだと考えています。

0次プランニングで、勝ち筋の探索速度を変える

従来のプランニングは、丁寧である一方、一度決めた戦略や仮説を前提に施策を積み上げていく構造になりがちでした。
しかしAI前提で考えると、プランニングは一本の道を突き進む仕事から、複数の可能性を高速に試し、事業にとって意味のある案を選び取る仕事へと変わっていきます。
AIの価値は、アウトプットの量産ではなく、勝ち筋の探索速度を引き上げることにあります。
AIが強くするのは、具体的な施策設計の前に全体像を描く「0次プランニング」です。そして全体像を描いた上で、仮説を速く試し、比較し、思考の抜け漏れをあぶり出す。
別の視点、別のターゲット、別のシナリオをぶつけながら、勝ち筋の解像度を上げていく。AIは、その反復回数を一気に増やしてくれます。

電通では2025年に「People IMC Prototyping」の提供を始めました。IMC(Integrated Marketing Communication:統合型マーケティング・コミュニケーション)設計に関する、ターゲット規定、戦略設計、戦術設計、評価という4つのステップを、独自アセットを学習したAIで高度化するソリューションです。専門人財の戦略メソッドや市場リサーチ、行動データ等を組み合わせ、多彩かつ高品質なプランを高速に設計・検証する。まさに「0次プランニング」のための実装です。

AIは、WHATからHOW、そしてWHYへ問いの質が競争力になる

重要なのは、AIで「何を作るか」から入るのではなく、「今、どの課題を解くべきか」から始めることです。ここが曖昧なままだと、もっともらしい一般論が大量に出てきて、かえって判断を鈍らせます。

業界の議論も変わってきました。数年前は「AIとは何か」というWHATが主題でした。次に「どう使うか」というHOWが問われ、いまは「なぜ使うのか」というWHYに重心が移っています。もはやAIを使うこと自体は差別化になりません。何をAIに託し、何を人が担うのか。その設計こそが競争力の源泉です。
AIは、平均的でそれらしい答えを返すのが得意です。だからこそ、人間の役割は「答えを出すこと」から、「何を問うか」を定義することへ移っていきます。AI時代に強いのは、答えを早く出す組織ではなく、問いの質を上げられる組織です。

プロトタイプとシミュレーションを組み込み、議論の質を高める

AI前提で見ると、マーケティングフロー自体も変わり始めています。
いま起きている変化は、プロセスの早いタイミングでプロトタイプ開発と事前シミュレーションが深く組み込まれてきたことです。商品コンセプト、ネーミング、パッケージ、広告アウトプット。以前よりはるかに短時間で「見てわかるもの」を提示できるようになりました。

重要なのは最終形をいきなり完成させることではなく、議論を誘発するプロトタイプを早期に提示し、そこからシミュレーションをしながら仮説を磨いていくことです。
手戻りをなくすことが目的ではありません。多彩な案を早く出し、拡散と収束を高速に繰り返しながら意思決定を前に進める。全体像をまず可視化し、解像度を高めながら必要な議論を詰めていく。
これからのマーケティングは、より仮説検証の密度を高めたアプローチに代わっていくはずです。

デュアルファネルを動的に捉えなおす

ここで効いてくるのが、デュアルファネルを分断せずに考えられることです。購買前と購買後のファネルを別々に管理するのではなく、生活者の行動に沿って往復する動的なものとして捉える。
ブランド施策と販促施策、マスとデジタル、上流と下流は組織的に分かれがちですが、生活者から見ればそんな区分は存在しません。
興味を持つ瞬間、比較する瞬間、購入を迷う瞬間、買った後に語りたくなる瞬間は、すべて連続しています。

AIは、この連続性を前提に、どの接点で何を伝え、どう態度変容を起こすかを複数シナリオで試しやすくします。生活者理解、ブランドの提供価値、予算配分といった論点も、切り分けて考えるより、つないで考えたほうが精度は上がります。あるシナリオの場合どのような結果を導くか、逆にある結果を導く場合どのようなシナリオになるのか、生活者の意識行動をAIで理解しながら行ったり来たりを、高速に行います。デュアルファネルも、静的な管理図ではなく、生活者が行き来する動的なモデルとして捉え直す必要があると感じています。
IMCの設計では、前述のPeople IMC Prototypingを用いて多彩な案を高速に出し、AIペルソナで評価する。ターゲット規定、戦略設計、戦術設計の組み合わせを広く試しながら、ブランドにとって有効な方向を見極めていきます。

商品開発でも同様です。人間だけで考えると、経験や成功パターンに引っ張られ発想が偏りがちですが、AIを使えば見落としやすいアイデアの軸を早期に設定できます。
ある飲料メーカーの新商品検討では、電通と企業側のデータからAIペルソナを構築し、欲求軸や飲用シーンを広く洗い出しました。コンセプトからコミュニケーション方向性まで短時間で試作し、AIペルソナとの対話で魅力と違和感をあぶり出しながら絞り込む。最初から当てにいくのではなく、広く試し、早く学び、意思決定の質を上げることが肝です。

AIはプランナーを不要にするのではなく、その本質をあらわにします。統合プランニングとは施策を並べることではなく、生活者・ブランドの関係をどう設計するかという編集行為です。
AIは素材を爆発的に増やしてくれますが、何を残し、何を捨て、どこに賭けるかは最後まで人間の仕事です。

AIの出力品質を決めるのは、モデルの差よりメソッドとデータ

もう一つ強調したいことがあります。AIの出力品質を左右するのは、モデルの差以上に、メソッドとデータをどれだけ組み込めるかです。さらに言えば、長年の実務を通じて蓄積された組織知や暗黙知、いわば事業会社・広告会社のDNAを、いかにAIのロジックとデータ設計に移植できるかが重要になります。

ここで鍵になるのが「ロジックデザイン」です。マーケターやクリエイターの思考フローを言語化し、構造化する。どの順番で考え、どこで広げ、どこで絞り、何を基準に判断するか。
これが整理されていなければ、AIはもっともらしくても実務で使えない案しか返しません。同時に「データブレンディング」も重要です。生活者データ、トレンドデータ、ブランドに関するデータなど様々なデータがありますが、大量に入れればよいのではなく、課題に応じて適切にデータを選定し、調合することが肝心です。
ここを押さえずにAIを使うと、丸投げプロンプトによる凡庸な出力に終わります。逆に、マーケティングメソッドを実装したプロンプトであれば、いわば、なるほどと膝を打つような「ヒザポンアイデア」を返してくれます。この差は大きいと感じています。
ロジックとデータが伴わないまま導入だけが先行すると、まさに仏作って魂入れずの状態になりかねません。

AIは「7合目までのツール」、最後のジャンプは人の意志で

私は、AIを「7合目までのツール」と捉えています。かなり高いところまでは連れて行ってくれる。ですが、最後のジャンプは人が担う。その感覚が大切だと思っています。
もちろん、D2Cのように高速で仮説を回し、機械的に最適化を徹底したほうが強い領域もあるでしょう。一方で、多くのブランドづくりや商品開発では、それだけでは足りません。
企業として何を信じるか、ブランドとして何を守るか、関係者が本気で売りたいと思えるか。自信を持って世に出せるか。そこには、人間の意志を注入する工程が不可欠です。

だからこそ電通のAI活用は「丸投げ」ではなく「共創」に重心を置いています。AIで大量の仮説を生成し、人間が絞り込み、さらにAIで顧客評価をシミュレーションしながらコンセプトを磨く。
AIの出力をそのまま採用するのではなく、人間が議論し、選び、磨き込むことが前提の設計です。

「何を解くか」が、AIを活かせる組織の分岐点になる

AIマーケティングの本質は、「何を作るか」より「何を解くか」にあります。この記事を通じて語ってきたのは、その「解き方」の具体像です。
具体的な施策設計の前に、全体像を早期に描く0次プランニング。プロトタイプとシミュレーションを早い段階から組み込み、議論の密度を高めるプロセス設計。購買前と購買後を分断せず、生活者の動線全体をデュアルファネルで動的に捉える視点。そしてその出力品質を支えるロジックデザインとデータブレンディングという設計力。
いずれも、AIがあるからこそ到達できる密度であり、同時にAIだけでは成立しない営みです。

統合プランニングは、一案をきれいにまとめる仕事から、成長の仮説を高速に試作し、比較し、磨き込む仕事へと変わっていく。AIはその変化を加速させる、非常に強力な相棒です。
そして解くべき問いの中心にあるのは、生活者の理解です。その視点を持てるかどうかが、AIを活かせる組織とそうでない組織の分岐点になると考えています。

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