-マーケターが押さえておきたいデータ活用の可能性-【なぜ若年層はテレビ番組を視聴するのか ~「推し活」と「短尺化」から紐解く20代へのアプローチ~】

公開日 2026年07月01日
  • メディア戦略

株式会社野村総合研究所

中村 拓登

「若年層のテレビ離れ」が叫ばれるようになって久しい。スマートフォンが普及し、動画配信サービスやSNSなど、生活者が触れるメディアが多様化した現代において、若年層の可処分時間の奪い合いはかつてなく激化している。実際、多くのマーケターは「20代にはテレビCMが届きにくい」という課題に直面し、デジタル広告への予算シフトを進めていることだろう。しかし、若年層が完全にテレビから離れてしまったわけではない。一定数の若者は今でもテレビ番組を視聴し、時としてSNS上で番組関連のキーワードをトレンド入りさせるなど、大きなうねりを生み出している。
本稿では、「テレビ離れ」という言葉で若年層を一括りにするのではなく、「今、あえてテレビを視聴している若年層は、なぜテレビを観ているのか」という問いを掘り下げる。NRIが独自に実施したInsight Signal調査(関東在住男女20~59歳、2026年5月実施)のデータをもとに、若年層特有の視聴動機や視聴態度を明らかにし、これからの若年層マーケティングにおけるテレビ活用の新たな可能性を探りたい。

余暇時間の使い方とテレビ視聴の実態

まず、生活者が余暇時間をどのように過ごしているのかを年代別に見てみよう。図表1(年代別余暇時間の使い方)に示すとおり、40代・50代では「テレビ番組を観る」が最も高い割合を占めている。30代においても動画配信サービスに次いでテレビ視聴が高い位置につけている。一方で、20代の余暇時間の使い方を見ると、「動画配信サービスを観る」「SNSを観る」が上位を占め、「テレビ番組を観る」は1割には満たない。

図表1:年代別余暇時間の使い方

この傾向は、実際のテレビ視聴状況にも顕著に表れている。図表2(テレビの視聴状況)を見ると、直近1週間に地上波やBS等のテレビ番組をリアルタイムで視聴したと回答した20代は5割程度にとどまっており、他世代と比較しても明らかに少ない。

図表2:テレビ番組の利用率

20代をテレビに向かわせる「推し活」動機

では、テレビを観ている20代は、どのような動機で画面に向かっているのだろうか。図表3(テレビ視聴のきっかけ)を見ると、世代間の明確な違いが浮かび上がる。全世代において「観たい番組・企画があったから」という目的視聴が上位に来る点は共通している。30代以上の世代では「習慣として、毎日決まった時間にテレビをつけているから」といった習慣的な理由が上位に入りやすい傾向があるのに対し、20代では「習慣」による視聴は極めて低い。

図表3:テレビ番組視聴のきっかけ

その代わり、20代の視聴動機として特徴的に上位へ食い込むのが、「好きなタレント・アイドル・声優等が出演するから」という理由である。いわゆる「推し活」である。20代にとってのテレビは、「とりあえずテレビをつけておく」といった受動的な習慣はなく、『推しが出演するから観る』という目的視聴に特化した使われ方をしていると言える。
これを裏付けるデータとして、図表4(リアルタイムでの視聴意向)を見ると、「好きな人(推し)の番組は、録画ではなくリアルタイムで観て応援したい」という価値観が、20代で特に高いことがわかる。彼らは推しが出演する番組を、単なるコンテンツとして消費するだけでなく、「応援行動(推し活)」の一環として、あえて時間を合わせてリアルタイム視聴しているのである。

図表4:推しが出演する番組のリアルタイムでの視聴意向

画面注視率の低さとSNSの相乗効果

推し活と結びついた目的視聴が多い20代だが、その「視聴態度」にも特有の傾向が見られる。図表5(テレビ視聴時の視聴態度)を参照すると、20代は「画面をしっかり見つめ、集中して観る」という回答、すなわち画面注視率が他年代よりも低い。これは単に番組への関心が薄いことを意味するわけではない。20代は、スマホで別のことをしながらの「ながら見」が多い一方で、「X(旧Twitter)等で感想を投稿・閲覧しながら観る」割合が他年代より高いという特徴を持っている。彼らはテレビ画面に釘付けになるのではなく、手元のスマートフォンとテレビ画面を行き来しながら、同じ番組を観ているファン同士で感想をシェアし、感情を共有しているのだ。つまり20代のテレビ視聴層は、画面を凝視する割合は低くても、SNSで積極的に感想を発信・共有することで、番組の話題をネット全体へと広げる重要な役割を担っていると考えられる。

図表5:テレビ番組視聴時の視聴態度

ショート動画慣れがもたらす「短尺化」への欲求

20代の画面注視率が低い背景には、メディア接触習慣の構造的な変化も影響しているのではないだろうか。図表6(ショート動画の普及状況)を見ると、直近1週間でのショート動画(TikTok、YouTube Shorts、Instagramリールなど)の利用率は、20代が他年代を大きく引き離して突出している。
彼らは、長時間のコンテンツをじっくり視聴することよりも、短時間で多種多様なコンテンツを次々と消費するスタイルに慣れ親しんでいる。タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する彼らにとって、従来の30分・1時間枠といったテレビ番組の長尺フォーマットは、1つのコンテンツ視聴に割く時間としては長すぎる可能性がある。そのため、テレビをつけながらも手元で別の短尺コンテンツやSNSを回遊するという、分散型の視聴スタイルが定着していると考えられる。

図表6:SNSショート動画の利用率

マーケティング実務への示唆

以上のデータから見えてくるのは、「20代のテレビ視聴層は、推し活動機での目的視聴が多く、画面への注視率は低いものの、SNSでの拡散・話題化には貢献しやすい」という人物像である。これを踏まえると、広告主がマーケティング実務において若年層へアプローチする際、単に「テレビを避けてデジタルへ」という二元論に陥るべきではない。むしろ、若年層の視聴特性を逆手に取ったテレビの活用法が存在する。
明日からの実務に向けて、広告主やマーケターは以下の2つの視点を持つべきである。
第一に、話題化(バズ)を狙ったキャスティングとSNSの連動である。20代のテレビ視聴を獲得するには、「なんとなく接触させる」のではなく「推し活動機を刺激する」ことが鍵となる。ターゲット層に支持されるタレントやインフルエンサーを起用し、テレビCMや番組提供を通じてリアルタイム視聴を促す。その上で、彼らがSNSで感想をシェア・拡散したくなるような仕掛け(共通ハッシュタグの提示や、SNS限定の連動コンテンツなど)を同時に展開することで、テレビのリーチ力とデジタルの拡散力を掛け合わせた大きな相乗効果が期待できる。
第二に、コンテンツの「短尺化」を意識した出稿戦略である。長尺コンテンツを敬遠しがちな20代に対し、従来の長いフォーマットで視聴を継続させることは難易度が高い。そこで、広告主側から積極的に5分~10分程度の「ミニ番組」のスポンサー枠を活用し、短くまとまったコンテンツを発信していくアプローチが有効となる。その中で、短尺のインフォマーシャル(番組風の長尺CM)を制作し、ショート動画のようなテンポの良さでブランドメッセージを連動して伝えていく手法も考えられる。
「若者はテレビを観ない」という事実に対して、彼らが「どのような時に、どのような態度でテレビを観ているのか」という切り口で実態に向き合うこと、ショート動画に慣れ、推し活に熱量を注ぐ彼らの文脈に合わせたコンテンツフォーマットと情報設計を行うことこそが、今後の若年層マーケティングを成功に導く重要なポイントとなるだろう。

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