株式会社電通 出版ビジネス・プロデュース局 デジタルコンテンツプランニング部 プランナー
松本 健
デジタルタイアップ広告の現状
出版デジタルタイアップ価値検証プロジェクトの成り立ちと、これまでの取り組みについてご紹介します。
デジタル広告市場全体に占めるデジタルタイアップ広告の割合は、現在わずか2.5%にとどまっています。デジタル広告は、認知獲得を目的としたトップファネル施策や、購買促進を目的としたボトムファネル施策に投資が集中する傾向があります。
しかし、情報があふれる現在、広告投資をしても認知獲得が難しくなっているほか、ボトムファネル施策も効率やコンバージョンを追求するほど成果が頭打ちになるという課題があります。こうした状況を背景に、近年はミドルファネルへの注目が高まりつつあります。
ミドルファネルは、商品やブランドへの理解促進、態度変容、消費者との関係構築などを通じて、中長期的なブランドエクイティの形成につながる領域です。トップファネルで獲得したユーザーを離脱させることなく、関心や理解を深めながらボトムファネルへ導くことが重要であり、その役割を担うのがミドルファネルだと考えています。
その有効な手法の一つが、デジタルタイアップ広告です。出版社Webメディアには多様な媒体が存在し、それぞれが明確な読者層を持っています。そのため、セグメントされたターゲットへのアプローチや、メディアによる第三者推奨の形成が可能です。また、多様な媒体特性を活かし、商材やターゲットに応じた最適な切り口で訴求できる点も強みです。
私たちは、デジタルタイアップ広告を単なる広告商品ではなく、メディアブランドとともに価値を創出する「パートナーマーケティング」の手法と捉えています。
一方で、ミドルファネルの重要性が再認識されているにもかかわらず、市場規模は依然として2.5%にとどまっています。その背景には、デジタルタイアップ広告の効果が十分に可視化されておらず、広告主が投資判断をしにくいという課題があるのではないかと考えています。
統一レポートプロジェクト
こうした効果可視化の課題に対し、広告会社3社(電通、ADK、博報堂)と出版社が連携し、2023年8月に「デジタルタイアップ価値検証プロジェクト」を立ち上げました。
プロジェクトの目的は、デジタルタイアップ広告市場の拡大です。そのためには、デジタルタイアップ広告が持つ価値を客観的に示す指標が不可欠でした。そこで着目したのが、タイアップ広告実施後に各出版社から提供されるレポートです。価値を測る指標を整備するためには、まずレポーティングの課題を解決する必要がありました。
課題は大きく二つありました。一つは、レポート項目が十分ではないこと。もう一つは、出版社ごとに指標の定義や算出方法が異なり、横断的な比較ができないことです。例えばPVの計測方法や、読了率・CTRの分母となる指標は出版社によって異なっていました。
そこで本プロジェクトでは、レポート項目の拡充と指標の平準化を進め、基本レポートの統一に取り組みました。現在は「統一レポート」として、①タイアップ実施結果、②タイアップ来訪者属性、③日別進捗、④総評の4項目を共通フォーマットで提示しています。
特に「タイアップ実施結果」では、PVやCTR、平均セッション継続時間など10の指標を共通で開示することを推進しています。また、読了率やCTRについても、出版社ごとに異なっていた算出基準を見直し、UUを分母とする形で統一しました。
この取り組みに賛同し、平準化された指標の開示を進めているのは、主要出版社33社・154媒体です。2024年12月以降、各社のレポートは順次統一レポートへ移行しています。
「統一レポート」導入後の広告主・営業担当者の声
統一レポートの導入後、広告主や広告会社を対象にヒアリングを実施しました。
広告主からは、「自社サイトと指標や基準が揃ったことで、タイアップメディアの価値を社内で説明しやすくなった」「媒体横断で実施した際の比較・検討がしやすくなった」「評価の認識差が解消された」といった声が寄せられました。
また、広告会社の営業担当者からは、「媒体ごとのフォーマット差異が減り、レポート整理の手間が大幅に削減された」「タイアップ実施後にどのようなレポートや指標が提出されるのかを事前確認する必要がほぼなくなった」など、業務効率化を評価する声が多く聞かれました。
さらに、統一レポートではエンゲージメント時間や平均セッション継続時間、読了率といった指標も共通化されたことで、これまで重視されがちだったPVだけでなく、コンテンツがどのように読まれたかという質的な評価も行いやすくなっています。
加えて、レポート形式や指標が統一されたことで、過去のタイアップ施策との比較や改善点の把握が容易になり、PDCAを回しやすくなったという評価も得られました。
一方で、指標が共通化されたことにより、新たなニーズも見えてきました。それが「相対評価」です。「業界平均と比べてどうなのか」「媒体カテゴリー別の平均と比較するとどのような位置づけなのか」といった比較・評価を求める声が増えており、統一レポートの次のステップとして、こうしたニーズへの対応が求められています。
指標開発プロジェクトとスコアシート
統一レポートの整備によって、各媒体におけるタイアップ広告の成果を共通の指標で評価できるようになりました。一方で、「業界平均と比較してどうなのか」「媒体カテゴリーごとに見るとどの水準なのか」といった相対評価へのニーズも高まっています。
こうした声を受け、次のステップとして取り組んでいるのが「指標開発プロジェクト」と「スコアシート」の開発です。
これまでの取り組みは電通、ADK、博報堂と出版社を中心に進めてきましたが、現在は日本雑誌広告協会のプロジェクトとして位置づけを拡大し、新たな体制へ移行しています。現在は「デジタルタイアップ価値検証ワーキンググループ」を組成し、業界横断で議論を重ねながらプロジェクトを推進しています。
ワーキンググループには出版社10社、協会関係団体2社、広告会社11社が参加しています。企業の垣根を越えて知見を持ち寄り、デジタルタイアップ広告の価値をより客観的に評価できる指標の開発に取り組んでいます。
指標開発にあたっては、統一レポートの「タイアップ実施結果」で共通化された10の指標を基礎データとして活用しています。これらの指標をもとに、単なる実績の把握にとどまらず、業界平均やカテゴリー平均との比較を可能にする評価指標の整備を進めています。
各出版社のタイアップ広告実績について、統一レポートで共通化された10の指標を収集・データベース化し、まずは各指標の平均値を算出しています。そのうえで、タイアップ広告の成果をより分かりやすく評価するため、新たに「スコア」の概念を導入しようとしています。
現在検討しているのが、「評価スコア」と「総合スコア」(いずれも仮称)です。
評価スコアでは、タイアップ広告の成果を3つの観点から評価します。1つ目は、読了率をもとにコンテンツがどれだけ最後まで読まれたかを示す「完読スコア」。2つ目は、平均セッション継続時間をもとに、どれだけじっくり読み込まれたかを示す「精読スコア」。そして3つ目は、CTRをもとに、LPや商品購入ページなどへの遷移をどれだけ促したかを示す「誘導スコア」です。
これら3つのスコアによって、「最後まで読まれたか」「深く読まれたか」「行動につながったか」という観点から、タイアップ広告の成果を多面的に評価できるようになります。
さらに、この3つのスコアを統合した指標として「総合スコア」の開発も進めています。
タイアップ広告にはさまざまな目的があります。例えば、LPへの送客を重視する案件もあれば、商品やサービスへの理解促進を重視する案件もあります。また、認知から行動までをバランスよく評価したいケースも少なくありません。
そこで総合スコアでは、案件ごとのKPIに応じて各スコアの比重を調整することを想定しています。LP送客を重視する場合は誘導スコアの比率を高める、コンテンツ理解を重視する場合は完読スコアや精読スコアの比率を高めるといった考え方です。
このように、タイアップ広告ごとの目的に応じた評価を可能にすることで、より実態に即した成果測定につなげていきたいと考えています。
現在は、各基礎指標の平均値に加え、「評価スコア」と「総合スコア」を組み合わせたスコアシートの開発を進めており、PoC(概念実証)にも取り組んでいます。
このスコアシートを活用することで、個別のタイアップ広告の成果を業界平均やカテゴリー平均と比較しながら評価できるようになります。さらに、その結果をまとめた「相対レポート」の提供も検討しています。
タイアップ広告の実施後には、出版社から統一レポートが提出されます。これに加えて、広告会社側でスコアシートを用いて分析を行い、各指標が平均値と比較してどのような位置づけにあるのかを一目で把握できる相対レポートを作成する構想です。
統一レポートによる絶対評価と、相対レポートによる比較評価の両方を組み合わせることで、タイアップ広告の成果をより立体的に把握できるレポーティングの実現を目指しています。
スコアシートの活用フロー
スコアシートの活用フローは、大きく「データベース基盤の構築」と「相対レポートの作成・活用」の二つのパートで構成されています。
まずパート1では、スコアシートの基盤となるデータベースを構築します。タイアップ広告を実施する際、広告会社は広告主に対して、実施後のレポートデータをデータベースへ活用することについて事前に許諾を取得します。
その後、出版社はタイアップ広告の実施結果を蓄積し、10の共通指標と一部のメタ情報をデータベンダーへ提供します。データベンダーは各出版社から集まったデータを統合・分析し、その結果をもとにスコアシートを作成。広告会社や出版社へ共有します。
なお、データベースには企業名や商品名などの個別情報は含めず、カテゴリーやジャンルごとの比較・分析ができるよう必要なメタ情報のみを付与する形で運用を検討しています。
パート2では、このスコアシートを活用した相対レポートを作成します。タイアップ広告の実施後、出版社から提出される統一レポートの10指標をスコアシートに反映することで、業界平均やカテゴリー平均との比較結果を示した相対レポートを作成できるようになります。
広告会社は、出版社から提出される統一レポートに加え、この相対レポートも合わせて広告主へ提出します。絶対値による評価と相対的な評価の両方を提示することで、タイアップ広告の成果をより多面的に把握できるようになると考えています。
現在は、こうした活用フローの実現に向けて検討を進めています。
スコアシートを活用した相対レポートは、データを提供する出版社、スコアシート利用料を負担する広告会社、そしてタイアップ広告のデータ活用に同意した広告主の三者が揃った場合にのみ提供する想定です。
ワーキンググループでは現在、PoC(概念実証)を通じて、どのような指標やメタ情報を取得すべきかについて検討を進めています。これらの結果を踏まえ、2026年6月には取得項目のアップデートを行い、7〜8月には説明会や資料の提供を予定しています。
その後は、広告主から許諾を得た案件についてデータ収集を開始し、データベンダーによる蓄積・分析を進めていく計画です。十分なデータ量を確保するため、約半年間の蓄積期間を設ける想定で進めており、早ければ2027年1月以降、相対レポートを活用したレポーティングを開始したいと考えています。
また、近年は出版社によるSNSタイアップや動画コンテンツの活用も拡大しています。こうした領域についても新たな評価指標の開発を進め、出版社メディアの価値をより多角的に可視化していくことを目指しています。
おわりに
雑誌デジタルのタイアップ広告は、今まさに大きな進化の途上にあります。M-VALUE DIGITALによるミッドファネル効果の可視化、そして統一指標とスコアシートによる絶対評価・相対評価の可視化。この質と量の両輪が機能することで、雑誌デジタルのタイアップ広告は『クオリティの高いコンテンツだった』という感覚的な評価にとどまらず、客観的なデータに基づいてROIを説明できるメディアへと進化していくと考えています。
私たち日本雑誌広告協会は、本日ご紹介した指標やスコアシートが業界の共通言語となり、デジタルマーケティングにおけるより良い投資判断につながるよう、今後も取り組みを推進していきます。出版社メディアの価値を感覚ではなくデータで語れる環境づくりを進めることで、デジタルタイアップ広告市場のさらなる発展を目指していきます。
進化を続ける出版社Webメディアにぜひご期待ください。