株式会社講談社 営業統括部 宣伝企画グループ担当部長
千葉 素久
私は1996年に講談社へ入社し、男性カルチャー誌「ホットドックプレス」を経て、「週刊ヤングマガジン」で編集者となり、『頭文字D』(しげの秀一)の担当を務めました。その後、「週刊少年マガジン」を経てライツ部門に異動し、アニメプロデュースや商品ライセンスを担当。『頭文字D』や後継作品『MF GHOST』のアニメ化にも携わりました。
2024年からは宣伝プロモーション を担当しています。新聞広告の経験は浅いものの、『頭文字D』30周年の施策を検討する中で、さまざまな選択肢を比較した結果、新聞広告を選びました。
30周年記念広告の目的
30周年広告では、連載開始当時から作品を支えてくれたコアファンへの感謝を伝えたいと考えていました。また、広告を掲載した2025年6月6日は『MF GHOST』最終巻の発売時期であり、しげの先生の新連載も控えていたことから、『頭文字D』が過去の作品ではなく、現在も広がり続けるIPであることを伝えたいという思いもありました。
『頭文字D』は漫画だけでなく、アニメやグッズ、キャンペーンへと展開する大きなIPです。そのため、コアファンだけでなく、若年層や女性ファンなど新たな層にも届けることを意識しました。
メディア戦略としては、新聞広告でコアファンに訴求し、交通広告でライトファンへの接点をつくり、SNSで車ファンを含む幅広い層へ情報を広げていくことを目指しました。
まずコアファンを重視したのは、情報があふれる中でマスに向けた発信だけでは話題化しにくいと感じていたからです。『頭文字D』のような作品は、まずコアファンに盛り上がってもらうことで、「頭文字Dって何だっけ」「何か話題になっているぞ」と周囲の関心を呼び、そこから30周年の情報を広げていけると考えました。
最初の接点として新聞を選んだのは、『頭文字D』が90年代から2000年代初頭に人気を集めた作品であり、当時からのファンには50代、60代も多いためです。作中に出てくる「峠」がある地方にコアファンが点在している 作品の認知拡大には、新聞が最適な媒体だと考えました。
一方で、新聞広告だけでは接触機会が限られます。そこでSNSや交通広告と組み合わせることで、30周年の認知を広げるだけでなく、その後の行動につなげていくことを目指しました。
新聞広告
新聞広告を1日限りで終わらせたくなかったため、『頭文字D』公式Xでカウントダウンを実施しました。「30周年広告を掲載する」「11年半ぶりの描き下ろしがある」と事前に発信し、期待感を高めることを狙いました。
今回の広告では、しげの秀一先生による11年半ぶりの『頭文字D』描き下ろしイラストを使用しました。『MF GHOST』完結後というタイミングも重なり、話題化やニュース化につながることを期待した企画です。また、広告は10都道府県で展開し、朝日新聞版と読売新聞版で異なるイラストを掲載。2紙を合わせると一つの絵になる仕掛けを設けることで、単なる懐かしさにとどまらない話題づくりを目指しました。
「#クルマが好きでよかった」というキャッチコピーは、今回の企画を象徴するメッセージになったと思います。
また、広告には「頭文字D 30th Anniversary」「完結のMF GHOST」、そして「昴(すばる)と彗星(すばる)」というコピーを掲載しました。「昴と彗星とは何だろう」と興味を持ってもらい、QRコードから詳細を確認すると、しげの秀一先生の最新作情報にたどり着く仕掛けです。
今回の企画では、とにかくコアファンに刺さることを重視しました。特に『頭文字D』の聖地である群馬には、主人公・拓海の父である文太をフィーチャーした特別版を展開しました。地域ごとのバージョンを用意することで、「ほかにも種類があるのでは」と話題になり、新聞広告を掲載日以降も楽しんでもらえるよう工夫をしました。
また、栃木、茨城、埼玉、神奈川など作品ゆかりの地域では、その土地を象徴する名場面を採用しました。さらに静岡、愛知、岡山、広島では、それぞれの地域と縁の深い自動車メーカーや車種をモチーフにするなど、地域ごとに話題化しやすい内容を意識しました。
単に広告に接触して終わるのではなく、認知やファン同士の交流 につなげることを狙いました。結果、中には新聞を交換されるファンもいらしたようで、その過程で継続的に『頭文字D』を意識してもらうことができました 。
実際に新聞広告をきっかけとしてSNS上ではファン同士の活発なコミュニケーションが生まれ、多くの反響が寄せられました。
J-MONITOR [広告接触状況]
Jモニターの定型調査も参考にしました。特に接触状況は気になっていましたが、調査結果からはおおむね良好だったことが確認できました。
特に参考になったのは好感度と態度変容の結果です。30代や60代の数値は想定を下回る部分もあり、当初の想像との違いが見られました。また、これまでさまざまな施策を行ってきたものの、認知はまだ十分ではないことも分かりました。
一方で、「あらためて頭文字Dに注目した」のスコアは高く、これはまさに狙い通りの結果でした。かつてのファンに対して、「作品は今も続いている」というメッセージを効果的に届けられたと感じています。
Xでの反響も注視していましたが、関連投稿や「いいね」は累計3万件を超え、広告は効果的に機能していたと考えています。
また、『MF GHOST』最終巻や新連載『昴と彗星』の発表に対しても大きな反応がありました。特に、しげの秀一先生の新連載を知ったユーザーから驚きの声が多く寄せられ、話題喚起という当初の狙いを達成できたと感じています。
交通広告
新聞広告の掲載から3日後の6月9日には、交通広告も展開しました。
新聞広告は朝日新聞版と読売新聞版を合わせて初めて一つの絵になる仕様でしたが、多くの人には完成形を見てもらいたいと考えていました。そこで3日後の6月9日、渋谷で交通広告を展開し、新聞広告から話題をつなげる施策を実施しました。
自動車メーカー各社の協力を得て展開しました。当初は協力のハードルも想定していましたが、7社が賛同。広告掲出後には各社の公式アカウントが作品にちなんだ投稿を行い、大きな話題となりました。
新聞広告、交通広告、SNSを連動させることで、一時的な話題化に終わらせず、接触から認知、さらに現地訪問やSNS投稿といった行動につなげることを目指しました。交通広告は、その流れを後押しする施策として展開しました。
交通広告の掲出後は、多くのファンが渋谷を訪れ、写真を撮ってSNSに投稿してくれました。あわせて、「#クルマが好きでよかった」を付けて愛車や好きな車を投稿すると、抽選でサイン入りポスターが当たるキャンペーンも実施しました。車ファンが自らの思いや愛車について発信する機会をつくることで、『頭文字D』との接点をさらに深めてもらうことを狙った施策です。結果として多くの投稿が集まり、大きな反響を得ることができました。