気候変動で暮らしはどう変わり、需要はどこへ向かうのか|生活者の変化から、新たな事業機会をつくる「適応マーケティング」

公開日 2026年10月07日
  • マーケティング
  • 調査結果分析
  • 生活者

株式会社電通 パブリック・アカウント・センター 株式会社電通グループ グループ・サステナビリティ・オフィス

荒木 丈志

入社以来、パブリック領域の業務に従事。特に環境政策に精通し、気候変動領域においては、中央省庁のみならず、民間企業との連携・支援プロジェクトにも多数参画してきた。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にも継続的に参加し、現地での活動を通じて気候変動適応の重要性を強く認識。こうした知見を活かし、電通においては気候変動適応に関するソリューション開発や調査研究など、幅広い取り組みを推進している。

株式会社電通 パブリック・アカウント・センター

金塚 成美

入社後、マーケティング戦略の立案やコミュニケーションプランニングに従事。2023年より、官公庁の政策動向や政策情報の分析を起点としたコンサルティング業務を担当。現在は、気候変動適応をはじめとする社会課題領域において、政策とマーケティング双方の視点を生かしたプロジェクトに取り組む。

気候変動で、暮らしと市場の「あたりまえ」が変わり始めている

暑さで、人の動き方が変わり始めています。正確には、「動かなくなる」のではなく、「動く時間や場所、買い方」が変わり始めています。
暑さを避けて外出する時間を変える。日中のイベントを夕方以降にずらしたり、涼しい時期に移したりする。買い物に出かける代わりに、自宅から注文する。子どもの外遊びを控える。

こうした一つひとつは、一時的な「猛暑対策」に見えるかもしれません。
しかし、少し長い目で見ると、私たちの暮らしの中で「これまで普通だったこと」が、少しずつ変化し、気候変動によって徐々に、しかし確実に影響を受けていることに気づきます。

・暑さを理由に外出の時間を変える。
・気候に合わせてイベントの開催時期を見直す。
・健康や食、住まい、働き方について、新しい選択肢を考える。

気候変動によって、生活者の意識や行動が変わり、その結果として、企業と生活者との接点や、市場そのものの前提も変わり始めています。マーケティングにおいても、「これまで売れてきたから、これからも同じように売れる」とは限らない時代が来ているのではないでしょうか。

この変化をどう捉え、企業の新しい価値につなげていくか。電通では、そのための考え方として「適応マーケティング」を提案しています。気候変動によって変わる生活者の意識・行動・選択を捉え、商品やサービス、売り方、さらには事業そのものを変化に適応させ、新しい価値につなげていく考え方です。

生活者は既に気候変動による暮らしの変化を感じている

電通では、企業の「適応マーケティング」を支援するため、生活者の意識と実際の行動という二つの側面から調査研究を進めています。

①気候変動インパクトに関する生活者調査

電通では、2021年より「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施してきましたが、それを発展させ、カーボンニュートラルにとどまらない気候変動の影響を捉えるため、1万人の声を集めました。
調査では、8割超の生活者が「今後5年間で気候変動の影響が強まる」と回答。特に「異常高温」「豪雨」「台風」などへの危機感が高いことが分かりました。

Q. あなたは、今後5年間で気候変動の影響が強まると思いますか。

さらに、この調査の中では、生活のどのようなシーンで変化が生じそうかについても細かく質問していますが、特に気候変動の影響で変化が生じそうな生活カテゴリーとして、「電気やガスの利用のこと(エネルギー)」(49.8%)、「食べるもののこと(食べ物)」(47.1%)、「体や心のこと(健康・病気)」(44.8%)などが上位にあがりました。

興味深いのは、同じ「気候変動」でも、気になる影響が人によって異なることです。50代以上では「食べ物」「家事」など生命維持や生活基盤に近い領域、10~40代では「仕事や勉強」「娯楽」など余暇や自己実現に関わる領域への関心が相対的に高い傾向がみられました。また、「美容」は女性、「地域」は男性で影響を気にする傾向がみられました。
さらに今後5年間に気候変動の影響で外出頻度が減ると考える人も53.1%と、半数を超えています。

この調査から見えてくるのは、「気候変動」という大きな言葉の先に、非常に具体的な生活課題が存在しているということです。
若い世代では、美容やファッション、学校生活への影響を感じる人がいる。
子育て世代では、子どもの健康や外遊び、家庭の生活管理についての不安が現れる。
高齢世代では、買い物、医療、見守りなど、生活を維持するための課題が意識される。

同じ気候変動でも、「誰にとって、何が変わるのか」は同じではありません。
この結果は、マーケティングに重要な示唆を与えます。「気候変動対策」という大きなテーマで一括りにするのではなく、「自社の顧客の暮らしでは、具体的に何が変わるのか」まで解像度を上げて捉える必要があるからです。

生活者は「猛暑日」を待たずに行動を変えている

意識だけではなく、実際の行動はどう変わっているのでしょうか。電通は、株式会社unerryと連携し、位置情報を活用した猛暑時の外出行動を調査・分析しました。調査の実施に当たっては、国立環境研究所気候変動適応センター及び東京大学未来ビジョン研究センターHICARIプロジェクトの専門家から助言を受けました。

②猛暑下における生活者の外出行動調査

その結果、注目すべき変化が見えてきました。
外出行動については、「猛暑日」とされる35℃を待たずに変化が生じており、土曜日の12~14時台では、その日の最高気温が31℃前後になるところから、外出行動の抑制がみられるという興味深い結果が明らかになりました。

さらに、暑さへの反応は曜日によって異なることも分かってきました。
土曜日は日中の外出が減る一方、18時以降に外出が増える傾向がみられました。対して日曜日では、夕方以降に行動を移すというより、外出そのものを控える傾向が強くみられました。

地域による違いも見られました。
さまざまな要因が考えられますが、気温と外出行動の関係は、公共交通の利用状況など、都市の移動環境によっても異なる可能性があります。

つまり、「暑いから人が出なくなる」という一言では捉えきれません。人が出かける時間が変わる。曜日によって変わり方が違う。地域によっても異なる。気候変動が生活者に与える影響は、想像以上に複雑です。

企業のマーケティングに置き換えると、ここには重要な示唆があります。ある商品に「気温が上がれば需要が増える・減る」という傾向があったとしても、それだけでは十分ではありません。需要が減ったのではなく、買う時間帯が変わったのかもしれない。店舗から別の購買方法に移ったのかもしれない。そもそも生活者が求める価値自体が変わっているのかもしれません。

重要なのは、気象データと売上データを直接結びつけるだけでなく、その間で起きている「生活者の変化」を捉えることです。

気候変動は「需要」を変える

このような、気候変動によるさまざまな変化に対応していくことを、気候変動対策では「適応」と呼びます。
温室効果ガスの排出を減らし、気候変動そのものを抑える「緩和」に対し、「適応」は、すでに起きている、あるいはこれから起きる影響に合わせて、被害を抑えたり、暮らしや産業のあり方を変えたりする取り組みです。

適応は、ともすれば、気候変動への「守り」の対応に見えるかもしれません。しかし、マーケティングの視点から考えると、適応は、被害を抑える「守り」だけの話ではありません。気候が変われば、暮らしが変わる。暮らしが変われば、人の行動が変わる。そして、行動が変われば、商品やサービスを選ぶ基準も変わります。

暑い時間帯を避けて出かける。ネットスーパーを利用する。イベントを涼しい時期や時間帯に移す。これまでとは異なる地域で農産物をつくる。こうした変化の積み重ねは、どの商品が必要とされるのか、どこでサービスが利用されるのか、どんな価値にお金が払われるのかを変えていきます。

だからこそ、気候変動は「環境部門だけのテーマ」ではありません。マーケティング、商品開発、事業開発にとっても、自社の顧客と市場の前提を見直すテーマになりつつあります。

「適応」を、新しい価値と事業機会につなげる

電通が「適応マーケティング」で目指しているのは、気候変動への対応を「守り」の施策だけで終わらせず、変化の中から新しい価値や事業機会を見つけていくことです。

気候変動によって暮らしが変われば、新しい困りごとが生まれます。その困りごとは、新しいニーズになります。
生活者が行動する時間帯や季節が変われば、販促やコミュニケーションのタイミングなど「売り方」を変える必要があるかもしれません。
これまで想定していなかった生活課題を起点に、新しい商品・サービスを考えることもできます。

さらに、企業がすでに持っている技術、商品、サービスを、変化する環境や暮らしの中で捉え直すことで、新しい用途、新しい顧客、新しい市場を見つけることもできます。
その先には、個別の商品や売り方だけでなく、事業そのものを変えていく可能性があります。
企業単独では解けない課題であれば、企業同士や自治体、行政、研究機関などとの連携によって、新しいサービスや社会の仕組みをつくることも考えられます。

「適応マーケティング」は、暑さ対策の商品を売るためのものではありません。
変わる生活者を起点に、「何を売るか」「どう売るか」「何をつくるか」「どんな事業を行うか」を捉え直すための視点です。

変化を捉え、事業につなげる - 電通の適応マーケティングソリューション

では、気候変動による変化を、企業はどのように事業機会へつなげていけばよいのでしょうか。電通では、大きく四つのステップで企業とともに検討を進めます。

出発点は、「何が変わっているのか」を具体的に捉えることです。生活者の意識や実際の行動を捉え、気象データと掛け合わせながら、地域や年代による違いまで見ていく。
こうした情報を組み合わせることで、漠然とした「暑くなっている」という認識を、「誰の、どんな行動が、いつ、どのように変わっているのか」という具体的な問いへと変えていくことができます。次に必要なのは、「その変化が、自社にとって何を意味するのか」を考えることです。

例えば、外出時間が変わったとき、自社の商品やサービスにはどんな影響があるのか。
生活者の不安が変わったとき、新しいニーズとして応えられるものはないか。
自社がすでに持っている技術やデータ、サービスに、別の用途を見出せないか。

ここでは、単に市場を調査するだけではなく、データから得られた発見を、商品開発やマーケティング、事業開発のアイデアに変換していくことが重要になります。

電通では、生活者調査や行動データの分析に加え、アイデアブレストやワークショップなどを通じて、こうした可能性を企業と一緒に探っていきます。
「気候変動に何か対応しなければ」という問いから一歩進み、「気候変動によって何が変わり、そこに自社のどんな新しい機会があるのか」と問いを変える。
この問いの転換に、適応マーケティングの大きな特徴があります。

そして、このプロセスを支えるのが、気候変動、サステナビリティ、未来予測、生活者マーケティング、データ分析、クリエイティブ、社会実装などの専門性です。気候変動による変化は、環境だけを見ていても捉えきれません。複数の視点を掛け合わせることで、生活者の変化を企業の事業課題までつなげて読み解きます。

また、生活者の「こう変わると思っている」という意識だけでなく、「実際にこう変わっている」という行動データも捉えます。
さらに企業が保有する購買データなどと組み合わせることで、自社の事業との接点まで掘り下げることができます。

分析をレポートで終わらせず、商品・サービス、マーケティング、事業のアイデアへ変換し、実装につなげる。「意識」「行動」「事業」をつなぎ、変化の発見から実装までを一貫して考えることが、適応マーケティングにおける電通の強みの一つです。

「適応に取り組みたいけれど、どこから考えればいいのか分からない」という企業も少なくないでしょう。気候変動というテーマは広く、すべてを一度に扱う必要はありません。

例えば、まずは勉強会で理解を深める。次に、自社のターゲットや事業領域に合わせてデータを分析する。そこから見えた変化をもとに、商品開発やマーケティング施策を考える。必要に応じて、戦略策定から実装まで進める。企業の課題や検討段階に応じて始めることができます。

重要なのは、「適応の正解」を最初から決めてしまわないことです。

企業によって、向き合う生活者も、保有する技術や資産も、目指す事業も異なります。だからこそ、まず変化を知り、自社にとって意味のある変化を見極め、そこから次の一手を考える。
電通は、そのプロセスそのものを企業とともにつくっていきます。

最後に――「適応」は、新しい市場をつくる視点になる

この夏、私たちが目にしたのは、気温の記録だけではありません。暑さによって、外出する時間、イベントのあり方、買い物の仕方が変わり、健康や暮らしについての考え方にも変化が生まれています。こうした小さな変化の積み重ねが、やがて生活の「あたりまえ」そのものを変えていきます。

企業にとって、この変化をどう捉えるかは、気候変動への対応という意味だけでなく、これからの市場をどう見つめるかという問いでもあります。今までの顧客は、これから何を必要とするのか。今ある商品は、どんな場面で新しい価値を持つのか。まだ解決されていない生活者の困りごとは何か。そして、そこからどんな新しい商品、サービス、事業を生み出せるのか。
気候変動によって変わるのは、気温や天候だけではありません。人がいつ動くのか。何を買うのか。何に価値を感じるのか。そして、どんな商品やサービスを必要とするのか。

気候変動による生活者や市場の変化は、これからも続いていきます。だからこそ、適応マーケティングにも、あらかじめ決められた一つの正解や完成形があるわけではありません。

「適応する」とは、変化に耐えることだけではなく、変化の中から次の市場をつくることでもある、と我々は考えています。変わり続ける暮らしの中から、新しい課題やニーズを見つけ、企業が持つ技術、商品、サービスと掛け合わせ、新しい選択肢をつくる。電通だけで答えをつくるのではなく、それぞれの企業が持つ知見やアセットとともに、「自社にとっての適応」を考え、形にしていきたいと考えています。

企業との取り組みを積み重ねながら、気候変動への「適応」を、一時的な対策ではなく、これからのマーケティングや事業を考える新しい視点として育てていきます。

問い合わせ先

株式会社電通 dentsu carbon neutral solutions事務局
荒木、金塚
Email:dentsu_carbon_neutral@dentsu.com

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