スキップされる広告から愛されるコンテンツへ~生活者の「可処分興味」を引き寄せるこれからのコミュニケーション~

公開日 2026年11月01日
  • 生活者
  • クリエイティブ
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  • 調査結果分析

博報堂キッチン 推進コアメンバー 株式会社博報堂 クリエイティブデザインセンター クリエイティブ局 局長補佐/クリエイティブディレクター

深澤 拓哉

1998年入社。『ヒト、モノ、世の中動かす行動デザイン発想』を軸に顧客との直接接点と体験をデザインする。「具体的な行動」から逆算しコミュニケーション全体を設計する。クライアント課題、地域課題、生活者課題をIPコンテンツで解決することをキッチンで推進しています。
受賞歴:カンヌライオンズ、アドフェスト、SPIKS ASIA、ACC、JPMなど受賞歴あり

はじめに

「こんにちは!博報堂キッチンです」 

このような自己紹介ではじまるSNS広告に出会い、少し不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。「博報堂キッチン」はコンテンツでマーケティング課題を解決することを目指しています。広告がかつてのように生活者に届きにくくなった時代、広告とコンテンツの境目がなくなり生活者に情報を届ける手法が多様化しています。本稿では広告とコンテンツの世界でいま何が起こっているか、そして、これからのクライアントとIPホルダー・媒体社と広告会社の関係がどのように変化していくのか、についての考察をお伝えしたいと思います。

なぜ「広告」はここまで避けられるのか

博報堂のメディア環境研究所「メディア定点調査」によると「スマホでネットを利用する際広告ブロック機能を利用したい」と回答した人は全体の43.7%に上り特に30代では6割弱の人が広告ブロックを利用したいと答えており、2016年からの11年間で約2倍に伸びています。(下記グラフ①参照)

グラフ①

動画広告が始まれば5秒後の「スキップ」ボタンに指を構え画面隅の小さな「×印」を探す。追加料金を払って広告非表示のプレミアムプランを選択する人も増加しているようです。30代に顕著ですが、全世代的に広がっているのは、一方通行なメッセージに対する明確な「疲労感」と「回避行動」です。

背景にあるのは、デジタル化による「情報過多」と、接触メディアの著しい多様化・分散化です。あふれる情報に晒される生活者は、自分にとって価値ある情報以外を自衛的に遮断するようになりました。(下記図①参照)

図①

ここで誤解してはならないのは、テレビや新聞、Webメディアといった「マスメディア(枠)」自体の価値が低下したわけではないという点です。広大なリーチ力や社会的信頼性、安全な配信基盤としての価値は今なお絶大であり、コミュニケーションに不可欠なプラットフォームであり続けています。
限界を迎えているのは「枠」ではなく、そこに流し込まれる中身、つまり「企業側が言いたいことだけを主張する広告メッセージ(一方向プッシュ型モデル)」です。

前述の「メディア定点調査」では「生活者が不要な広告刺激を回避・スキップする」実態が如実に示されている一方、「番組や動画など気に入ったコンテンツは何度でも繰り返し見たい」というスコアも上昇しています。従来のメディアや広告枠の中でも、興味をそそるコンテンツを提供できればメッセージは届く、ということが読み取れます。(下記グラフ②参照)

グラフ②

例えるなら「素晴らしい器なのに盛り付けられた料理が食欲をそそらない状態」と言えます。メディアという「器」の良さを活かすためにも、今求められているのは、そこに載せる「中身(コンテンツ)」そのものの劇的な変革なのです。

「可処分時間」ではなく「可処分興味」をどう獲るか

近年のマーケティング現場では「タイパ(時間対効果)」が叫ばれ、「生活者は忙しいから広告を見ない」と捉えられがちです。しかしその本質は、忙しいからではなく「自分に関係のないノイズ」に時間を割きたくないだけなのです。実際に生活者は、「面白い」「自分にとって価値がある」と思えるコンテンツであれば、長尺や有料配信であっても深く没入します。

しかし、現状の企業メッセージの多くは、そこまで「のめり込めるコンテンツ」にはなり得ていません。もちろん、現場のマーケターが厳しいKPI達成を求められ、商品機能や売上につながる情報優先的に伝えざるを得ない状況も理解できます。

だからこそ、奪い合うべきは物理的な「可処分時間(タイムシェア)」ではないのだという発想の転換が必要です。真に獲得すべきは、心が揺さぶられ夢中になる、生活者の「可処分興味(心や関心のシェア)」なのです。人は面白いと感じたものには自ら進んでのめり込みます。それが既存の広告枠の上であっても、です。

「枠と時間で到達させる」発想から脱却し、企業メッセージを「自ら見たくなるコンテンツ」へ変換させるには、生活者視点に立った、心を動かす新たな価値の付与、すなわち「生活者価値デザイン」への思考転換が不可欠です。一方的な情報伝達にとどまらず、感動・共感する体験へと昇華させることが、KPI達成と生活者の熱狂を両立させるカギとなります。

広告はコンテンツ化していく〜愛されるコンテンツと拡張するクリエイティビティ〜

では生活者の「可処分興味」を引き寄せるには、何がポイントになるのでしょうか。必要なのは、コミュニケーションを「届ける(説得する)情報」から「のめり込ませる(没入させる)体験」へと進化させることです。生活者が目や指や足を止めて夢中になるストーリーや世界観の「コンテクスト(文脈)」に、ブランドの思想を自然に編み込んでいく「ブランデッドコンテンツ化」のアプローチです。メッセージを「見たくなるコンテンツ体験」に変えることで、マスメディアが持つ広大なリーチ力も本来のポテンシャルを100%発揮できます。上質なコンテンツとマスメディアの到達力が掛け合わさったとき、一時的な露出を超えた強い相乗効果が生まれます。

さらにこの時代には、「枠の中の表現を変える」だけでなく、「枠そのものを創出する」新たなクリエイティビティも求められています。既定の15秒・30秒枠やバナースペースに表現を流し込むことだけがクリエイティブではありません。「テレビ番組」「WEBドラマ」「ゲーム」「体験型イベント」「街中空間」「バーチャル空間」など生活者とブランドが出会うあらゆる接点を、ワクワクを生み出す新たな『生活者インターフェース』として自由な発想で開発すること。これこそが、これからのクリエイターに求められる重要なクリエイティビティの拡張と言えるでしょう。(下記図②参照)

こうして「枠そのものを創出」することで、「広告のコンテンツ化」と「コンテンツの広告化」がパラレルに進み、生活者と企業を結びつける新たな場が開かれていきます。

図②

これから大事なのは「三方良し」の共創関係

こうした背景を受けて、私たちは何をすれば良いのでしょうか?企業とIPホルダー・媒体社と広告会社の関係はどう変わっていくのでしょうか?

私たちが目指すのは、クライアント企業、IPホルダー・媒体社、広告会社が三位一体となり、生活者が熱狂する「ブランデッドな体験」を共に創り出していくことです。クライアントの課題解決と同時に、コンテンツ市場における新たな成長機会を創出する取り組みです。(下記図③参照)。その中核、3者の想いが重なる部分には、先述したキーワードであり、私たち博報堂が掲げるビジョンにもつながる「生活者価値デザイン」があります。

図③

この3視点が重なる中心で「見たくなる一皿(コンテンツ)」へと調理し、持続的で深いブランド愛着を創出します。具体的には①課題をショートドラマ等に変えて解決する「エンタメ化」、②媒体社との「事業共創」、③IPを活用した「ファンコミュニティ・ビジネス創造」の3つのドメインで生活者のワクワクとクライアント・IPコンテンツホルダーとのビジネス共創を実践していくことが新しい関係性となります。そして、この共創関係を軸に「生活者発想」と「クリエイティビティ」をコンテンツビジネスへ拡張していくために立ち上げたのが、当社の社内横断のプロジェクトチーム「博報堂キッチン」です。

おわりに:これからのコミュニケーションとパートナーシップ

最後に、ここまでのまとめです。広告を「愛されるコンテンツ」へ昇華させ、生活者に真の熱狂体験を生み出すために、これからのマーケティングコミュニケーションには「4つの構造転換」が求められています。(図④参照)

図④

案件ごとの「オリエンとプレゼン」の関係から、課題設定から共に思考する「常時接続」へ。そして枠の買い付けを超えて、共に新しい体験を仕掛ける「仲間」へ。

規定の枠にメッセージを押し込むだけでなく、「コンテンツ」という課題解決手段を持ち、受発注を超えて「一緒に熱狂体験を作る仲間」としてビジネスを共同開発すること。コミュニケーションのあり方をコンテンツへと変革していくことは、企業、IP・メディア、生活者の全員と真のパートナーシップを築き、共に未来の市場を切り拓いていくことにほかならないのです。

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