環境省 大臣官房 環境経済課 課長
平尾 禎秀
グリーンウォッシュへの警戒が生む「グリーンハッシュ」
「環境表示ガイドライン」の改定にあたり、大きな動機となったのが「グリーンウォッシュ」でした。欧米では近年、さまざまな議論が行われ、法規制も整備されてきました。その背景には、2015年のパリ協定(私も交渉チームの一員でした)があり、すでに10年以上が経過しています。
一方で、日本企業は非常に真面目です。悪意をもった表示が行われる状況とは違うのではないか、という議論もあります。
そもそも「グリーンウォッシュ」に一般的な定義はありません。環境に配慮しているように見せながら、実態が伴っていない状態を指すことが多い言葉です。ただ最近では、グリーンウォッシュと批判されることを恐れるあまり、「グリーンハッシュ」と呼ばれる現象も見られるようになりました。
グリーンハッシュにも一般的な定義はありませんが、環境への取り組みについて積極的に語らず、「静かにする(hush)」ことを指します。どこまでの表示なら批判されないかよく分からないため、下手なことは言わないでおこう、という考え方です。
「グリーンハッシュは、個々の企業が合理的に判断して訴求しないというだけなので、問題ないのではないか」と言われたことがあります。確かに個々の企業の判断としては合理的かもしれません。しかし、社会全体で考えると決して望ましい状態ではありません。環境に配慮した製品やサービスが評価される市場、いわゆるグリーンマーケットを広げていくという観点からは、こうした傾向が広がることは好ましくないと思います。
信頼の循環による市場創出
意図せざるグリーンウォッシュは、誰も望んでいるものではありません。そこを防ぎながら、同時にグリーンハッシュも抑制することで、事業者にとってのチャンスロスを回避することにもつながります。
環境に配慮した商品やサービスを選びたいという消費者は確実に存在しています。そうした需要と適切な情報発信がうまくかみ合い、市場が発展していくことが望ましいと思います。
ガイドライン改定に向けた検討の中では、消費者の実態や意識についてもレビューを行いました。消費者庁や電通、博報堂などの調査データも参考にしています。
例えば、「グリーンウォッシュを知っていますか」という問いに対し、「内容まで知っている」と回答した人は約2割でした。一方で、「言葉は知らないが、そうした経験をしたことがある」と答えた人は約4割います。私の解釈ですが、環境表示に対して何となくもやもやした違和感を持っている人は、それなりにいるのではないかと思います。
また、消費者庁の調査では、「環境配慮のマークがある商品を積極的に選ぶ」と回答した人は23.9%でしたが、他にも、地産地消を意識する、不要なものはもらわないといった行動への回答を見ると、環境に配慮したいという意識は一定程度存在していることが分かります。
消費者として何か行動しなければならないという意識はあるものの、どのような商品やサービスを選べばよいのか分かりにくい。その曖昧な部分が、環境コミュニケーションの重要なポイントなのだろうと思います。
適切な情報提供によって消費者の信頼が高まり、その信頼が購買行動につながり、市場の成長を後押しする。そうした好循環を生み出していくことが重要です。
環境表示ガイドラインの位置づけ
「環境表示ガイドライン」は環境省が策定しています。一方で、コンプライアンスの観点から表示を取り締まる景品表示法については、かつては公正取引委員会、現在は消費者庁が所管しています。
環境表示ガイドラインは、ガイドラインであり、いわゆるソフトローと捉えられるかもしれません。しかし、実際には様々に絡み合っています。環境省はこれまでも、グリーン購入法の枠組みの中で、購買者側の視点からさまざまなガイドラインを示してきました。
景品表示法との関係では、第7条第2項の「合理的な根拠がない効果・性能の表示は優良誤認表示とみなされる」という考え方が大きなポイントになります。
また、環境表示ガイドラインでは、事業者による自己宣言型の環境表示のあり方について、ISO/JIS Q 14021との整合が図られています。
グローバルな動向を踏まえたガイドライン改定
海外では、ラベル表示による自己宣言型の環境主張に関するISO14021(対応する国内規格はJIS Q 14021)があり、欧州では、グリーンウォッシュへの対応を目的としたさまざまな指令が出されています。
例えば、2年前には不公正取引方法指令(UCPD)が改正されました。2026年3月までの国内法化することになっており、各国で対応が進められているはずです。これは取引慣行に関する一般法で、不公正取引とみなされる行為のリストがかなり細かく定められています。
認証を受けていない自主的なラベルを表示することや、一般的で曖昧な環境主張、商品と関係のない環境訴求などについても言及されており、注意が必要です。また、グリーン訴求指令案も出されましたが、提案は撤回するとされ、手続が止まっています。
その他にも、海外では虚偽広告などを規制する一般的な消費者法や、環境主張に関するガイドラインが整備されています。
グローバルな動向としては、国連環境計画(UNEP)が持続可能性情報の提供に関するガイドラインを公表し、「基本原則」や「意欲的な原則」を提示しています。内容としてはISOともおおむね軌を一にしており、押さえるべきポイントとして参考になるものだと思います。
今回のガイドライン改定にあたっては、13年前に策定したガイドラインと各国のガイドラインを比較検討しました。その結果、大きな方向性としては遜色ないという議論になりました。
グリーンウォッシュへの目が厳しくなっている状況は踏まえつつも、これまでの環境表示ガイドラインの骨格は維持したまま改定しています。これまでガイドラインに沿って実務を進めてきた方であれば、大きく対応を変える必要はありません。ただし、内容としてはかなりのアップデートが行われています。
改定環境表示ガイドラインの検討体制
「環境表示のあり方に関する検討会」が2025年9月から開催されました。座長は、ライフサイクルアセスメント(LCA)の専門家である平尾雅彦先生です。
また、オブザーバーとして参加いただいた日本広告審査機構(JARO)様には大変お世話になりました。景品表示法との関係もあって、「一緒に検討しましょう」ということで消費者庁にも参加いただいています。
今回の改定は、大きく方向性を変えるというよりも、時代に合わせてアップデートしたことがポイントです。
目的は「健全な市場の成長につながる」ことです。適用範囲については、景品表示法の対象となる環境表示だけでなく、イメージ広告も含めています。
内容についてはISOに準拠し、5つの基本項目で整理しています。さらに推奨事項やコラムも盛り込み、近年問題となっていることや、実務上のリスクにつながりかねないポイントについても取り上げました。
対象となるのは、環境に関する自己主張であり、例えば第三者認証ラベルそのものではありません。事業者が「これは環境に良い」といった明示的な主張を行う場合が対象になります。
また、「暗示的な主張」も対象です。例えば、広告の中で自然の川が流れる映像や画像を用いる場合なども含まれます。
5つの基本項目
①曖昧な表現や環境主張は行わない
グリーン購入と言っても、そのグリーンは何?って言いたくなります。30年以上前、「環境に優しい」という表現が広がりました。曖昧で良くないということで、使う場合は、何をもって環境に良いのかを説明することが重要です。この辺で引っかかりやすい「カーボン・オフセット」とか「カーボンフットプリント」の動向もコラムで紹介しています。
②説明文をつける
何がどういいのかを説明するということです。コラムに、景品表示法の「合理的な根拠を示す資料」の要件について載せました。景品表示法とのリンクを意識してガイドラインを作っていることは注目していただけるのではないかと思います。
極めて技術的な話になりますが、マスバランスという考え方については注意すべきポイントがあり、コラムでも取り上げています。
③製品のライフサイクル全体を考える
環境にいいというとき、何が環境にいいのか。プラスチックを減らしています、植物由来です、というとき、無理な土地改変や伐採を伴っていてはよくない。主張しようとする環境改善が、重大なトレードオフをもたらさないか。厳密なライフサイクルアセスメントをする必要は必ずしもないですが、こういうところに目が届いていることはとても大事です。「環境にいいです」というときは、そういう全体のことをしっかり考慮していただくということが大事です。
④環境主張の検証に必要なデータ、評価方法が提供可能、アクセス可能である
データや評価方法など、「なぜ環境に良いと言えるのか」を確認できることが重要です。QRコードを付ける、ホームページで公開するなど方法はいろいろありますが、必要な情報に容易にアクセスできること、透明性をもって開示されていることが求められます。
⑤数値により適切に評価されていること
製品または工程による比較評価は、LCA評価や各種数値などによってなされていることが求められます。ただ、リファレンスとオリジナルを比較して厳密に評価しなければならない、ということを言っているわけではありません。大事なのは、何が環境に良くなったのかをきちんと示すことです。
本体なのか、包装なのか、あるいは工程なのか。そうした違いが紛れないように主張していただきたいということです。
信頼の循環につながる環境コミュニケーション
ガイドラインは、企業姿勢を示す広告やイメージ広告も対象としています。「環境のために良いことをしています」と訴求するだけではなく、その根拠を説明したり、データをたどれるようにしたり、自然の風景などを用いる場合はその主張との関係を説明できるようにしておくことが重要です。
「結局のところ、アカウンタビリティ(説明責任)だ」と言われたことがありますが、その通りだと思います。
今回の環境表示ガイドライン改定では、参考情報として海外動向も追加しました。また、「リビングドキュメントとして継続的にアップデートしてほしい」という意見もいただいており、今後は環境省のホームページで情報を更新していく予定です。
例えば、カーボン・オフセットについては、クレジットを購入するだけではなく、自らのCO2排出量を削減する取り組みも求められます。日本でも「知って、減らして、オフセット」という考え方を示してきており、まずは排出削減に取り組むことが前提となっています。
EUではグリーンウォッシュへの目が厳しくなっています。最近も、別の地域ですが海外展開を行う日本企業がグリーンウォッシュと指摘された事例もありました。非常にもったいないことですので、こうした海外動向にも注意していただければと思います。
今回の環境表示ガイドライン改定は、「アップデート」であることがポイントです。骨格そのものは維持しており、イメージ広告も引き続き対象としています。このガイドラインに沿って対応していただければ、少なくともグリーンウォッシュとの批判を受けるリスクは大きく下げられる内容になっていると思いますので、ぜひチェックしていただきたいと思います。
事業者の皆さんには、グリーンハッシュに陥るのではなく、積極的に情報発信していただきたいと思います。また、消費者の皆さんにも、そうした取り組みを応援していただきたいと伝えています。そうした積み重ねが、信頼の循環につながっていくことを期待しています。
まとめ~広告に関わる皆様へ~
グリーンウォッシュと批判されるのではないかと、過度に恐れる必要はないと思っています。そのための拠り所として環境表示ガイドラインがあります。ぜひ参照・活用いただきたいと思いますし、良かれと思って行ったことが逆効果になるリスクも抑えられるのではないかと思います。
消費者側には「本当に環境に良いのだろうか」というもやもやがありますし、訴求する側も「どこまで言ってよいのか」と悩むところがあると思います。そうした中で、広告をつくる側やクリエイターの皆さんには、伝えるプロとして積極的に提案していただけるとありがたいです。
また、自らの環境対策に目を向けることも、環境主張の説得力を高める重要なポイントです。CO2対策は「知る・測る・減らす」です。まず排出量を算定し、その上で削減していくというステップで考えれば、それほど難しいことではありません。
排出量の算定は、基本的にはエネルギー使用量に排出係数を掛け、電気やガス、ガソリンといった項目ごとの排出量を足し合わせるという考え方です。完璧を目指す必要はありません。まずはやってみることが大切です。
自ら取り組んでいるからこそ、環境への取り組みを伝える際の説得力も増していくのだと思います。