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ネスレ日本株式会社 飲料事業本部 コールドコーヒービジネス部 部長
村岡 慎太郎
知る・計測する・アクションする
私は今年1月から主に900mlPET製品のマーケティングに携わっており、その前はキットカットを担当していました。キットカットでは外装袋の紙化を進め、900mlPET製品では今年3月からリサイクルペット素材100%のペットボトルを採用し、プレスリリースも発表しています。
私たちは、どちらかというとグリーンハッシュに陥りがちです。お客様に誤解を与えてしまうのではないか、それならむしろ言わない方がいいのではないか、と考えてしまうことがあります。社内でもさまざまな議論をしています。
特に、環境への取り組みをお客様に伝わる言葉へ変えていく際には、それがグリーンウォッシュにもグリーンハッシュにもならないよう、適切な伝え方を探していかなければなりません。先ほどの3名のお話は、私自身とても勇気づけられましたし、次に取るべきアクションがより明確になったと感じています。
今日は広告という観点からお話しします。アジェンダは5つあります。
まずはアドベリフィケーション、つまり広告の質の問題です。ブランドセーフティ、アドフラウド(広告不正)、そして広告が実際に見られているかを示すビューアビリティなどがテーマになります。
当時、これらは日本でも課題になりつつありましたが、企業への浸透はまだ十分ではありませんでした。そこで私は、これらを計測し、可視化する取り組みを進めました。
その結果、ブランドセーフティ上のリスクがどの程度あるのか、無効トラフィックやアドフラウドがどの程度発生しているのか、ビューアビリティはどの程度なのか、そして実際にはどれだけの広告が見られていないのかを把握できるようになりました。
計測した上でアクションを取ることで改善が進みます。知ること、計測すること、そしてアクションすること。この流れは非常に分かりやすく、アドベリフィケーションについて話すと賛同してくださる方も徐々に増えていきました。今では一般的な考え方になっていると思います。
広告によるCO2を可視化する
そうした中で、次に何ができるだろうかと考えたとき、あるセミナーで「広告配信に伴う推定CO2排出量」というテーマに出会いました。
デジタル広告は、各社とも投資額が増えていると思います。効率化という観点から運用されており、それ自体はあるべき姿だと思います。一方で、そのセミナーを通じて、データ転送量が増えることによってCO2が排出されていることも知りました。
主な排出源は、データセンターやサーバー、ネットワーク、そしてユーザーのデバイスです。では、広告によるCO2に対して何ができるのか。その問いに対して取り組んだのが、今回ご紹介する内容です。
ただし、私自身、PLを管理する立場でもありますので、バランスを見ていかなければなりません。CO2削減だけに着目した結果、広告のパフォーマンスが損なわれ、お客様にとって意味のない施策になってしまっては本末転倒です。
重要なのは、広告のパフォーマンスとサステナビリティを両立して考えることだと思っています。ここでご紹介する数字はあくまで参考値であり、「こうした見方ができる」という事例としてご覧いただければと思います。
私たちはある会社様と取り組みを行い、キットカットを担当していた際に実際に計測してみました。すると、広告配信によってどの程度のCO2が排出され、どのくらいのデータ転送量が発生しているのかを具体的な数字で把握することができました。
私のレベルでは、まず参考値としてでも現状を知ることが大切だと感じました。現在どの程度のCO2が排出されているのか、例えば自動車の走行距離に換算するとどのくらいなのか。そうした形で可視化することで、次に何をすれば削減できるのかを考えられるようになったのです。
CO2とパフォーマンスを4象限で捉える
では、広告のパフォーマンスをないがしろにしてよいのかというと、もちろんそうではありません。やはり重視しなければならないと思っています。
例えば、CPM(Cost Per Mille)などの指標を比較しながら考えていく必要があります。YouTube、Teads、seenThisなどで完全視聴率やCPMを見たときに、最も安価な媒体にすべて予算を振り分ければよいのか。あるいは、全体のバランスを見ながら、他の部分を改善していく方がよいのか。そうした判断が必要になります。
ここでお伝えしたいのは、CO2排出量が可視化されなければ、そもそもそうした発想にも至らないということです。ですので、現時点ではまず知ること、見てみることが重要だと思っています。
例えば、CO2排出量と広告パフォーマンスを4象限でマッピングすると、低CO2かつ高パフォーマンスの領域が、さらに投資を拡大できる有望なスポットとして見えてきます。
計測と可視化によって、どこに投資することが自社にとって良いのか、言い換えれば、お客様にどのような価値を提供できるのかを考えられるようになります。
また、これを短期・中期・長期で考えたとき、業界全体としてどうあるべきかという視点も重要です。ブランドセーフティ、ビューアビリティ、アドフラウドについては、すでにKPIとして管理している企業も多いと思います。
それと同じように、CO2についても第三者計測の活用を前提とした可視化が進んでいくのではないでしょうか。すでにCO2計測が可能な企業やメディアも増えているため、まずはそうした企業と取り組み、自社のCO2排出量がどの程度なのか、広告パフォーマンスと比較するとどう見えるのかを把握することが大切だと思います。
Excelベースでも構いませんし、ダッシュボード化することも難しくありません。定期的に確認しながら状況を把握し、その上で初めてアクションにつなげていくことが重要だと思います。
「低CO2×高パフォーマンス」を目指し、アクションへ
長期的、あるいは中長期的には、こうした考え方をメディアバイイングの中に統合していき、「低CO2と高パフォーマンスの両立を目指す領域」を目指していくことが大切だと思います。
アドベリフィケーションも、各社が運用を進める中でノウハウや知見が蓄積され、それが共有されることで、業界としての基準が形づくられてきました。
同じように、広告におけるCO2についても、知見を発信しながら「こうあるべき」という考え方を業界全体で育てていくことで、広告はさらに良くなっていくのではないかと思います。
そうした方向を目指していきたいと考えています。
質疑応答
Q:環境表示ガイドラインについては、法務部に確認すれば十分でしょうか。
法務チェックに出した際、景品表示法以外の内容まで見てもらえるのか少し不安があります。
各社の法務部門がどこまでを所管しているかによって異なると思います。法的拘束力のある法令だけを見るのか、ガイドラインのようなソフトローまで含めて確認するのかは、法務部門のスタンス次第です。
ただ、一般的な法務担当者であれば、ガイドラインのような行政文書を読み解く能力は十分にあると思います。
そのため、チェックを依頼する際に、「景品表示法だけでなく、環境表示ガイドラインの観点も踏まえて確認してほしい」と伝えれば、対応してもらえるのではないかと思います。
Q:制作会社の立場として、社内やクライアントとの打ち合わせで「グリーンウォッシュではないか」と指摘すると、相手に嫌悪感を持たれてしまうのではないかと心配しています。どのように伝えるのがよいでしょうか。
これまで行ってきた表現や訴求を急に変えるのは難しいかもしれません。ただ、「環境表示ガイドラインを確認したところ、この点が気になった」と伝えるのがよいのではないでしょうか。
ガイドラインの内容を踏まえると、場合によってはグリーンウォッシュと受け取られる可能性があります。法的な罰則があるわけではありませんが、環境省が示しているガイドラインである以上、レピュテーションリスクにつながる可能性は十分に考えられます。
その点を丁寧に説明しながら、社内やクライアントと議論していくことが大切だと思います。
「自分の意見」ではなく、「このガイドラインに照らすとどうか」という形で話すことで、共通の基準として活用しやすくなるのではないでしょうか。
Q:サービス申込者にエコバッグをプレゼントする企画を広告する場合、そのエコバッグがなぜエコなのかという合理的根拠まで示す必要があるのでしょうか。
エコバッグは広く定着した語であり、語の一部にエコが入っているからといって、一つひとつ説明しなければならないということにはなりません。一方で、特殊な特徴を持つものであって、その特徴の訴求を伴うものであれば、説明が必要になる場合もあるかもしれません。
Q:環境表示ガイドラインについて不明な点がある場合、環境省へ相談することはできますか。
「これはどう考えればいいのだろう」と迷うことがあれば、環境表示ガイドラインの担当窓口に気軽にお問い合わせいただければと思います。
環境表示ガイドラインのパンフレットは環境省のホームページで公開されており、その中に問い合わせ先も掲載されています。担当者もおりますので、ご活用いただければと思います。